「はなび・・・?」

「え?お前・・・花火しらねぇの?」







つ持たれつ2







松陽の切ってくれたスイカを食べているときだった。未だに夏を感じられる物を探しつづけていた小太郎が「花火!」といきなり口にしたのだ。

しかし、銀時には聞きなれないものだったようでスイカの種を頬につけたまま晋助に「しらない」と答えている。


「花火ですか、良いですね」
「せんせい!おれ、先生と花火がしたい!」
「おれもせんせいと一緒にやりたいです!」
「では、スイカを食べ終えた後で買いに来ましょうか」


よほどうれしかったのか、晋助と小太郎はスイカにものすごい勢いで食らいついた。あまり見たことがない2人の様子に銀時は茫然としている。

「花火というのはね、夜空にとても美しい大輪の花を咲かせるんですよ。今日私たちがやろうとしてるのは、手で持てる小さな花火ですけどね」

松陽はそう語りながら銀時の頬についていたスイカの種を取った。うまく想像ができないのか、あまり納得のいく表情をしていない銀時に「銀時も実際に見たら、きっと気に入りますよ」と暖かく微笑む。


「せんせい早く!もう食べ終わっごほごほっ」
「慌てるからだ晋すげっほげほっ」
「慌てずにゆっくり食べなさい。花火は逃げたりしませんよ」

松陽はスイカを喉に詰まらせた2人の背中を大きな手でゆっくりとさすり、くすくすと笑った。






道中セミが懸命に鳴き、西日が照りつけ、みんなで日陰に身を隠す。

通り過ぎてく風の匂いを、いつか懐かしいと語り合う日が来るのか。


松陽は数歩先を行く子供たちを見つめ、切なさと嬉しさで胸をいっぱいにしていた。











待ちに待った夜。気温もいくらか下がり、風もさほど強くなく、絶好の花火日和とでも言おうかという日だった。

松陽がもってきたろうそくに火をつけている横で、遊び方がわかる晋助と小太郎はすでに始めたくてウズウズしている。

火を使うものなのかと、そこから知った銀時は松陽に1対1で教えてもらっていた。


「ここを持って、ここに火を付けるのです」
「ここ?」
「はい」
「持ちにくい・・・」
「もうすこし持ち手の部分が長いのにしましょうか。・・・では、最初はこれでやってみましょう」


火傷をさせないよう細心の注意を払わねばと、ほかの花火を探す松陽の姿はまるで本物の父親のようだった。


「松陽せんせい見て!!すごいきれい!!」
「本当、きれいな赤ですね」


花火熟練者がやる2本持ちをしている晋助に、松陽が「怪我しないでくださいよ」と言うのは、もはや口癖と化していた。花火の美しさに夢中で何も聞いていない晋助は、まるで親の心子知らずとでも言ったところだろう。


「熱っ?!おい晋助!おれの方にむけるな!熱いだろう!」
「気のせいだ!」
「そんなわけあるか!」
「せんせい、これであってる?」
「はい、あってますよ」


松陽に見ててもらいながら、人生初の花火を体験した銀時。シュパッと音がしたと思えば、鮮やかな緑色の火花がはじける。


「わぁ・・・」
「綺麗な緑色ですね。銀時、熱くないですか?」
「だいじょぶ・・・・・あっ、」


シュッと光が暗闇に飲み込まれるように消えた。その美しさと儚さが花火の魅力だと松陽は言ったが、銀時の心の中にはなんとも言えぬ切なさが残った。


「せんせい、おれもう一回やる!もう1人でできる!」
「わかりました、気を付けてくださいね」
「うん。・・・おいヅラ!おれの花火とどっちが長くもつか勝負だ!」
「受けてたつぞ!」
「あ!おれもやりたい!」
「じゃあ晋助は勝ったほうと勝負な。審判やって」




やっと心配が薄れてきた松陽は縁側に腰掛け、子供たちが楽しそうに笑う姿を見ていた。

今日、1日を通して自分が子供たちに何かを与えられたか振り返ってみる。


「(よくよく考えると・・・たいしたことはしてあげられませんでしたね)」


花火の光が2色、3色と増えていく中で、こっそりと残念そうに目を細めた。


「(・・・してもらったことの方が多かった、ということでしょうか)」


松陽は、銀時が自らお饅頭の神様のところへ行くと言ったときのことを思い出していた。まさか「自分が行くから・・・ここに居て!」と言ってくると思ってなかったのだ。

今まで銀時と過ごしてきた日々が、実を結んだような気がして嬉しかった。

晋助や小太郎が自分と一緒に居ることがこの夏の今までにない体験だと言ってくれたことも、どれだけ幸せを感じたことだろう。


叶うことなら、ずっとそばにいてやりたい。

だが、それができないことはわかっていた。

彼らが大人になった時、自分の身はどうなっているか。


だから、望むことはただ1つ。



「「「せんせい!」」」
「!」
「銀時どけよっ!おれが最初に」
「晋助はずっと話してたじゃんか!」
「せんせい!今じめんに花火で文字書いたんです!見てください!」
「「それおれのセリフ!!」」


一斉にやってきて、目の前で喧嘩を始めた3人。松陽は1人1人名前を呼び、聞いてほしいお願いがあるのだと切り出した。


「なに?せんせい」


晋助を筆頭に、穢れのない綺麗な瞳が松陽に向けられた。


「みんなはいつか必ず大人になります。大人になるにつれて、過去の記憶は薄れていきます。今日という日も、過去の一部になるのです」
「「「・・・」」」
「それでも・・・たとえ記憶が薄れてしまっても、ふとしたきっかけで思い出せるような・・・そんな場所に、みんなと過ごした思い出をしまっておいてくれると、私は幸せです」


3人の目の奥が、ユラリと揺れた。


「なんで・・・そんなこと言うの?」


銀時が素直に問いかける。弁解をしようとする松陽よりも早く、銀時は口を開いた。


「せんせいとの思い出、忘れることなんてありえないよ?」
「!」
「だって、ほら・・・」


松陽の右手を小太郎、左手を晋助が握り、縁側から立ち上がらせる。そして、銀時が彼らをある場所へ誘導した。




「・・・!、」






ずっといっしょ

晋すけ 小太郎
ぎんとき せんせい







暗闇で見にくくても、松陽の目にはそれが見えていた。

うっすらぼやけて見えるのは、暗闇のせいではなさそうだ。



「せんせい?」
「・・・はい、なんでしょう?」
「花火、やろう?」
「・・・・・えぇ。そうですね・・・っ。やりましょう」



この笑顔を守るためなら、なんだってやれる気がした。



end...







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