支えていると思ったら

支えられていた






つ持たれつ






松陽はこの夏、塾生たちに自力でさまざまなことを体験してほしいと考え、数日間の休みを設けた。休み明けの塾生たちの成長を心から楽しみにしていた。

そんな中、塾生が誰も来なくなった松下村塾で相変わらず小太郎と晋助は毎日のようにここへきていた。


「・・・おや、また2人ともここへ来ていたのですか?」

「松陽せんせい!」

「せんせい!」


ちょうど部屋の前を通りかかった松陽が、いつもの顔ぶれを目にした。駆け寄ってくる2人を困った顔でむかえ、ひざをついて目線を合わせた。


「晋助、小太郎。せっかく休みをあげたのですよ?私が休み前に言っていたことは覚えていますか?」
「覚えてるよ!いろんな体験しろでしょ?」
「そうです。なにかいつもと違う体験はしましたか?」
「今してる!おれ、休みの間はずっとせんせいと一緒にいることにした!」
「!」
「いつもはずっとじゃないから!」


「えへへっ」と晋助は、無邪気な笑顔を浮かべた。それはちょっと違うような気もする・・・と思ってしまった松陽も、可愛い塾生からの嬉しい言葉を素直に受け止めることにした。


「ふふ、そうですか。では私もなにかしてやれないか、考えないといけませんね」
「ほんとう?!?」
「あ!!晋助ずるい!!おっおれも!!」
「はい、もちろん小太郎も。あと・・・銀時、」
「・・・?」
「お前にもね」


畳みに座ったまま、松陽たちの様子を黙ってみていた銀時。照れくさそうに、少し距離を置きながら、部屋をあとにする3人の後ろをついて行った。










「せんせい!みてみて!」
「晋助が持ってきたのは・・・ひまわりですね。夏に咲く花です」
「じゃあ正解!?」
「はい、当たってますよ」
「松陽せんせい!おれのも見てください!」
「小太郎・・・これは・・・」
「さっき井戸のところで見つけました!」
「これは・・・お供え物のお饅頭ですね。残念ながら夏とは関係ありませんよ」
「え!?」


身近なもので夏を感じるものを探そうと、松陽は松下村塾の周りから好きなものを選ばせた。それを縁側に座っている松陽のところまで、皆嬉しそうに持ってきていた。

小太郎がまさかのお饅頭を持ってくるという事態が発生し、隣で爆笑する晋助と、優しく微笑み「もう一度探しておいで」と促す松陽。なぜ彼の中でお饅頭が夏を感じるものとして存在するかは謎である。

松陽は再び探しに出た2人を見送ると、そろりとこの場を逃げ出そうとしている子の名を呼び止めた。


「銀時」
「!」
「ちょっときなさい」
「・・・」


ばつが悪そうに目をそらし、すり足で音を立てながら寄ってきた。


「おかしいですね。お饅頭は仏壇にお供えしておいたはずですが・・・なぜ小太郎は井戸で見つけたのでしょうか」
「・・・・・」
「銀時、いったい誰が井戸でお饅頭食べようとしていたのでしょう?」
「・・・お、」
「お?」
「・・・お・・・・・お饅頭の、かみさま・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」


銀時の背後から、晋助と小太郎の笑い声が聞こえる。どうやら、松陽と銀時のやりとりを見ているらしい。


「そうですか・・・」
「・・・」
「私は決断をしなければなりません」
「けつだん・・・?」
「お饅頭の神様がお怒りなので、謝りに行くべく私はしばらく松下村塾を留守にしなければなりません」
「えっ」
「どうやら・・・誰かにお饅頭を食べようとしていたと濡れ衣を着せられ、怒っておられるようです」


松陽は「帰って来られるのは数日後か数か月後か・・・数年後か」・・・そう続けた。


「いっ・・・いやだ!!」
「・・・ですが銀時、このお饅頭を食べようとしていた人物を見つけない限り、私はお饅頭の神様に会いに行って謝りにいかなければならないのですよ」


目の前で大好きな松陽が悲しげな顔をしている。もはや後ろで笑っている2人の声が耳に届かないほどに銀時は自分のついた嘘を悔やんでいた。


「じゃあじゃあ!!おれが行く!!だからっ・・・ここにいて!!」


思いもよらなかった言葉に、目を丸くする松陽。同時に、銀時は駆け寄ってきた晋助と小太郎に頭をたたかれていた。


「いてっ」
「うそがバレバレだ!お供え物のおまんじゅうを食べるやつがあるか!ばかだな」
「それを夏のものだと思いこむヅラも相当ばかだぞ!」
「晋助がひまわりを夏の花だと当てたのだってたまたまだろう!」
「おい!晋助も小太郎もおれを間にはさんで言い合いするのやめろよ!」
「もとはと言えばおまえが先生を!」
「はい、そこまでですよ」


縁側に腰掛けていた松陽が止めに入れば、みんなすぐに喧嘩をやめる。これは松陽にしかできない多くのうちの1つだ。


「銀時、」
「・・・はい」
「お饅頭食べたいのなら、黙ってないで言いなさい。ちゃんとあげますよ」
「・・・」
「でも、これは神様のものだから元の場所に戻して、ちゃんと謝っておいで」
「・・・はい、」


銀時の頭を優しく撫でると、松陽は縁側から腰を上げて草履を脱ぎ、部屋に上がった。


「小太郎と晋助、スイカを切って待っていますから銀時と一緒に行って、一緒に謝ってあげてください」
「はい!」
「行くぞ銀時!」
「あ、まてよ晋助!小太郎!おれが先だぞ!!」



結局もめてしまう3人がまるでわが子のように可愛く思える松陽だった・・・。




next...







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -