ひらり、はらりと舞い散る葉。
ふわりと吹き抜ける少し冷たい風。
澄みきった、青空。
そのすべてが”秋”を感じさせる。
”秋”は嫌いではない、寧ろ好きだ。
でも、あなたがいなくなってしまったあの日から”秋”が来るのが嫌になった。
俺を人間にしてくれた、あなたがいない”秋”なんて...
寂しくて、悲しくて、涙が一粒零れ落ちた――
「銀さん、夕飯出来ましたよ。」
「んーいらない...」
「もう、何日も食べてないじゃないですか!」
「んー」
曖昧な返事を返し、布団の中に潜った。
毎年、この季節になると何も食べられなくなるのだ。
体が重くて、だるくて、布団から出られなくなってしまう。
もう、ずっとそうだ。
あの人がいなくなってしまった次の年から。
薬を飲んだって、医者に診てもらったって治らなかった。
だって、病気ではないから。
神楽と新八に心配をかけさせたくない、そう思うのに体は言うことを聞いてくれなくて...
「松陽、先生...っ」
気付けばあの人の名を呼んでいた。
”何ですか、銀時”
そう、返事は来るわけはなくて。
声を殺して泣いた。
次の日
いつの間にか俺は、寝てしまっていたようだ。
居間でカチャカチャと朝食の準備を始めている音が聞こえてきた。
しばらくすれば、新八がいつも通り俺を起こしに来た。
「銀さん、朝ですよ。」
「おー」
「銀ちゃん、今日、めっさ良い天気アル!散歩行こうヨ。」
俺の枕元に腰を降ろし、神楽がそう言った。
「銀ちゃんが辛いなら、無理にとは言わないけど...。でも、このままじゃだめネ!」
「銀さんがどうして毎年、この季節になると体調を崩してしまうのか理由は聞きません。銀さんが話したくなったらいつでも聞きますけど...でも、僕らは”家族”何ですから少しは頼ってくださいっ」
今にも泣きそうな声でそう言う新八の頬にそっと手を伸ばした。
「神楽も新八もありがとう、な。銀さん、今日は体調良いから散歩行こっかな。」
ふわりと笑ってそう言えば2人は嬉しそうに微笑んだ。
「やったアル!あ、でも無理は良くないから銀ちゃんは定春に乗るヨロシ。」
「お弁当は僕が作りましたから!盛り付けは神楽ちゃんがやってくれたんですよ。」
「ありがとな。じゃあ、行くか。」
2人に支えられながら、俺は久しぶりに布団から出た。
「定春、銀ちゃんのこと落とさないようにネ?」
「ワン!」
久々の外はすっかり寒くなっていた。
吹き抜ける風は気持ちよくて、見上げた空は澄んでいて...どこからか金木犀の香りが漂って来る。
やっぱり”秋”だった。
でも、何故か”嫌だ”とは感じなくなっていた。
「銀ちゃん、銀ちゃん!」
「んー?」
「今から行く場所ねとっても綺麗なんだヨ!ね、新八。」
「本当に綺麗な場所なんですよ。こないだ神楽ちゃんと散歩してて見つけたんです!」
「へー楽しみだな。」
定春の背中に揺られながら約20分。
どうやら目的地に着いたようだ。
そこは、いつも神楽が定春を遊ばせている公園だった。
「こっちアル!」
神楽が先頭を歩き、着いた場所には大きな大きな銀杏の木があった――
「すげぇ...」
俺は、ゆっくりと定春から降りそれを見上げた。
定春から降りた俺を2人はすぐに支えに来た。
「綺麗、でショ?」
「あぁ。こんな綺麗な銀杏を見たのは久々だ。」
ざあァァァァと風が吹けばひらひらと黄色の葉っぱが舞い散る。
「ずっと銀ちゃんに見せたかったネ。」
ぎゅうと俺の手を握り締め神楽は言った。
その手を強く握り返し、もう1つの手も握った。
暖かい2つの温もりから伝わるのは嘘のない”愛”だった。
「心配かけさせて悪かったな。」
「本当ですよ!!何でもかんでも1人で抱え込むのはやめてください。少しでもいいから頼ってください!銀さんの役に立ちたいんです...っ」
ひらひらと散る銀杏の葉と共に新八の瞳から涙が零れ落ちた。
「私も銀ちゃんの役に立ちたいネ!銀ちゃんに護られてばかりは嫌アル!」
神楽の瞳からも涙が零れ落ち、俺は俺の為に泣いてくれる愛しい子どもたちをそっと抱き寄せた。
「新八も神楽も十分役に立ってるよ。お前らが傍にいて笑ってくれているそれだけで俺はすげぇ幸せになれるんだから...。護られてるのは俺の方だ。」
「銀ちゃん...」
「銀さん...」
「だから、深く考える必要はねぇよ。」
ポンッと2人の頭を撫でれば2人は涙を拭き、笑った。
「銀ちゃん大好きアル!」
「僕も銀さん大好きです!」
「ワン!」
3人と1匹で見上げた銀杏の木はとてもとても綺麗で、この銀杏の木に負けないほどの大きな”絆”が俺たちにはあるのだと、そんなことを思った。
「俺もお前ら全員大好きだコノヤロー」
この愛は無限大
(もう、きっと大丈夫)
→あとがき