泣いても、笑っても、
会えなくても
君だけ、たったひとりの
馬鹿兄貴
兄妹
「銀さん、そういうことですから後のことよろしくお願いしますね」
「はいよー」
「神楽ちゃんも、風邪には気を付けてね」
「姉御もネ」
朝、出勤時間にやってきたのは、新八ではなく姉のお妙だった。どうやら新八が風邪を引いたらしく、果物やらを買いに来たついでに、万事屋に顔を出したらしい。
玄関の扉が閉まり、お妙の影が見えなくなったのを確認すると、2人は居間に戻った。
「あいつが風邪なら誰が飯作るよ?」
「そんなの決まってるアル。聞くまでもないネ」
「そうだな。聞くまでもねぇな」
神楽はソファーに、銀時は専用の椅子に深く腰かけた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「「・・・・・」」
「「じゃーんけーんぽん!!」」
朝っぱらから始まったじゃんけん大会。後出しだ、これはサンマだ、いやゴマだ・・・などと互いに言いがかりをつけあい、最後には本物のグーで殴り合うのだ。
勝者は・・・言うまでもない。
「・・・・・」
「頼んだヨー銀ちゃん」
ソファーに寝転ぶパジャマっ子を前に、銀時は理不尽にも風邪で休んだ眼鏡を恨んだ。
◆
「今日も仕事無いアルか?」
「今日もって言うな」
「じゃあオセロやろうヨ。じゃないと暇過ぎて溶けるネ」
「俺、黒な」
「うん」
朝食後はゆるやかな時が流れていた。すでに夏のような気候だが、窓を開けて入ってくる風が心地良い。
万事屋にはオセロの駒をひっくり返す音だけが鳴っていた。
「・・・新八どれくらいで戻ってくるネ?」
「さぁな。明後日ぐらいじゃねぇの?」
「姉御のお粥食べれるなんて天にも昇る気分ヨ」
「マジの意味でな」
「姉御のご飯、身体が弱ってるときに食べると、効果抜群アル」
「そっちの意味でな」
パチ、パチ・・・と、盤が黒と白で埋まっていく。4つ角中3つを取った神楽は、心の中で勝利を確信した。
「羨ましいってか」
「!」
「ぱっつぁんが」
「なんでヨ」
「姉弟水入らずってな」
「・・・そ、んなんじゃないアル!好きなだけお粥食べれるのがズルいってだけネ!」
冗談のつもりで口にしてみれば、すぐムキになる神楽をみて軽く笑った。そして、銀時は盤上にある最後の角を制する。
「お粥なんて旨ぇモンじゃねぇだろ」
「お腹いっぱいになるってところが大事アル!」
「そりゃ悪かったな。貧乏で」
フフン、と鼻で笑いながらふざけつつ謝って見せた。
「別に貧乏悪くないネ。笑える貧乏だから気にしないアル」
「・・・、」
「笑わなくなった貧乏よりましネ」
「・・・・・ん、俺の勝ち」
神楽の呟きに、銀時が何かを言うことは無かった。
銀時によってパチリと置かれた最後の1枚は、盤を白から黒に埋め尽くしていった。
◆
「昼前でも・・・暑いアルな」
「わんっ」
「あ、銀ちゃんに頼まれたもの忘れたアル。・・・まぁいいや」
従業員兼、家政婦の新八が居ないとなると、必然的に家事をやる人がいなくなる。オセロを終えて、仕方なく作業を分担することにした銀時と神楽。
「じゃ、俺は洗濯すっからお前は買い物に行け」
と言ってはみたものの、買い物代として今晩の飲み代まで巻き上げられるとは思っていなかっただろう。
そして今、買い物を終えた神楽は公園のベンチで酢コンブを食べている。
「定春ぅ、遊んできて良いヨ」
「わんわん」
頭を撫でてやりながらそう言うと、勢いよく走り出し、公園中を駆け回り始めた。
「元気アルなぁ」
真っ白な毛を風に揺らし走る姿に、思わず心の声が漏れた。ベンチに座ったまま足をぶらつかせ、目を伏せる。
その表情は定春の元気いっぱいな様子とは、正反対だった。
「・・・笑わなくなった、貧乏家族・・・・・」
日が照る中、大きな傘で陰を作り、酢コンブを手に持ちながら膝を抱えて全身を覆った。
視界に、仲良く笑い会う
兄妹をとらえて・・・
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