涙は、悲しい時にしか流れない

そう思ってた







ひら4








「なぁ、銀時ってどこから来たの?」


部屋に戻った3人の前に並ぶのは、彼らが作ったたくさんのおにぎり。

一緒に昼食を作ったからか、子供だからか、意外にも早く打ち解けている。

和やかな昼食中、おにぎり片手に問いかけたのは小太郎だった。


「どこから?・・・外」

「ふーん」

「外からなのは、おれとてわかっている。・・・晋助、それはおれのたくあんだ」

「ちっ・・・」


銀時に質問をしつつ、横から伸びてきた晋助の箸に気付く小太郎。抜け目の無い彼からたくわんを盗むのは至難の業だ。そんな晋助の行動もさることながら、あの興味のない間延びした相槌のしかたは悪意があるように思える。


「どこって、・・・遠いような、近いようなとこ」

「一体どこだ」

「そんなことより・・・なんで松陽せんせいといっしょに住んでるんだよ!つーか稽古の時間はみんな平等なんだぞ!お前ばっかりみてもらって!!それに!!・・・お前の稽古中の動き、はじめてとは思えねぇ!!」


晋助は口の中のおにぎりを飲み込むと、ずっと疑問に思ってたことを次々と問いただした。


「晋助少しは落ち着かないか。ごめんな銀時、晋助は昔からこうなんだ、言いがかりのプロでな」

「シバくぞコラ!」

「見ればわかるから気にしてない」

「なッ!?てめぇ!!」

「ほら、たくわんやるから落ち着け」

「もういらねぇよッ」


晋助は失礼な言い方の小太郎と相手にしない銀時の2人に、おにぎりを投げそうな勢いだった。


「・・・住んでるんじゃない、置いてもらってるだけ」

「!・・・」

「稽古の時間なんて決められてたこともしらねぇよ」

「ま・・・まぁ、だろうな」

「稽古をするのははじめてだけど、戦場に居たからいつも刀ふりまわしてた」

「戦場に・・・、出てたのか?」

「違う。でも、・・・それ以上聞いてほしくない」

「「・・・・・」」


人には、誰にも言いたくないことが1つ2つある。いつかの授業で、松陽が言っていた。

小太郎は銀時の態度から、そうだろうと推測し、深く追求すれのはよそうとした。


「お前自分の生きてきた道に誇りも持てねぇのかよ」

「!」

「晋助ッ!」


無鉄砲で気遣うことをしない晋助が口を開くまでは・・・。


「せんせいはな、いつも『己が魂の、信じる道を行きなさい』って言ってくれる」

「・・・・・」

「だから、おれは自分の生きてきた道に誇りがある!自分が信じた道を進んでるからな!」


大人でもなかなか口にしない
『誇り』という2文字。

それを自信満々に言い放てるのは、彼の性格だろうか。

銀時は否定も肯定もせず、話し続ける晋助に耳を傾けた。


「お前がどんな生活してきたか知らねぇし」


屍から奪う飯など
美味くはないでしょう



「どこで松陽せんせいと会ったのかは・・・まぁ、気にしねぇことにする」


私がこうやってお前を背負い、
家路を歩いた日の事は
お前の記憶に残るだろうか・・・




「だけどこれから松陽せんせいに色々教わるなら」



お前がこの先経験する事は、
例え辛く、苦しい事でも
決して無駄にはなりません。





「せんせいのこと信じねぇと許さねぇ!」



失敗など恐れず生きなさい。
立ち向かう姿勢が大事です。

それを持つ銀時は

誰が何を言おうと、

・・・私の、誇りです。




「!」




初めて会った日

初めて背負われた日

初めて松下村塾に来た日



晋助が言った言葉がその日その日に松陽の言っていた言葉と重なった。



「・・・・・」


何も言わなくなった銀時。
晋助と小太郎は顔を見合わせた。


「ちょっと、厠行ってくる」

「え、あ・・・うん」


下を向き、早口で足早に出て行く銀時に、小太郎は「行儀が悪い」といつものセリフを言い忘れた。










長い。

この廊下は初めて授業を受けた日に歩いた時も、そう思った。



誇りとは無縁の生き方


そんな自分に、
居場所を与えてくれた


何もない自分を
誇りだと言ってくれた



どうしてなんだろう



どうして戦場で刀を振り回していた自分に、誇りなど持ってくれたのだろう・・・




「・・・・・っ・・・」




自分の軌跡のように見えた廊下が
ぐにゃり・・・と歪んだ。


足元に零れる水滴

拭っても拭っても溢れ出て

袖口に染みていく・・・涙。


松陽の想いが嬉しくて流れる涙・・・


肩を震わせて、声を抑えて

大事な刀を抱きしめて

溢れる涙が止まるまで




1人・・・、静かに泣いていた・・・・・












「・・・あいつ長くね?」

「そういうことは気付いても気付かぬふりをするのが礼儀だぞ。銀時とて人間だ、デカいのをすることもあるだろう」

「勝手にデカいのとかいうの止めてくんない?1番の礼儀知らずはお前だよ」


数分後、部屋に戻ってきた銀時が2人の会話に割って入った。そんな彼の変化に気付き、小太郎はそこを指摘する。


「銀時、なんだか目が赤いぞ・・・?」


彼は、あぁ・・・と気にすることなく普通に答えた。





「おれの目、元から赤いんだ」





出掛け先から松陽が帰ってきたのと、銀時が初めて笑ったのは、ほぼ同時だった・・・。




end...







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