料理は愛情

これに勝るもの無し







ひら3







銀時が松下村塾にきて2週間ほど経った今日は、松陽に出かける用事があり、珍しく授業が自習になっていた。とは言え、晋助は自習せず、さっきから真面目に教本を読んでいる小太郎に愚痴を零し続けている。


「松陽せんせい居ねぇし、ヒマだし、つまんねぇ」

「少しは自習をしろ晋助。騒がしくすると周りにめいわくがかかるだろう」

「めいわくなもんか。この部屋に居るのは、おれとお前と・・・あいつだけだろ」


晋助が言うように、松陽が居ない松下村塾は自発的に自習しに来た小太郎と、彼についてきた晋助、銀時の3人しかいない。他の塾生は、自ら自習には来なかったようだ。


「お前ぐらいだよ、せんせいが居ないのに教本ひらく奴は」


晋助は呆れた様子で、文字を目で追う小太郎を眺めていた。


「・・・しかし、銀時も今日ここに来ているとは思わなかったな」

「あいつはここに住んでるって噂だ」

「!そうなのか??」

「・・・おれ松陽せんせいとあいつが買いものしてるの見たし」


大層不機嫌な顔をして銀時を睨みつける男に『目つき悪いぞ』と注意する。


「・・・腹減ったなぁ」


ぎゅるるるるる・・・


「「!」」


晋助がそう口にした瞬間、部屋中にお腹の音が鳴り響いた。

しかし、なぜか晋助からではなく、眠っている銀時の方から聞こえた気がする。


「・・・・ん・・・」

「「!」」


ぎゅるるるるる・・・


「んー・・・」


ゆっくりと目覚め、眠そうな目をこすっている銀時を2人で見ていると、再び大きなお腹の音がした。

今ので、銀時のお腹が鳴ったのだと確信する。


「・・・」

「!」


その視線に気づいた銀時が彼らの方を向いた。


「・・・授業・・・おわった?」

「え・・・?」


あくびをしながら2人に質問をしてくるが、授業が無い日に終わったかどうか尋ねられて困惑する晋助。


「銀時、きょうは授業ないぞ?」

「・・・ない?」

「せんせい言ってただろう?」


そういえば・・・と、部屋にやってきた時には、銀時はすでに定位置で刀を抱え眠っていた事を話しながら思い出した小太郎。


「・・・あぁ、そんなこと言ってたな・・・」

「・・・」

「銀時、お腹減ってるのか?」

「・・・・・うん」


ようやく頭が冴えてきたのか、部屋をぐるりと見渡し状況を確認し始めた銀時。この場に居るのが、自分を含め3人だと認識すると、小太郎の質問に答えた。


「じゃあ家からなにか持ってくる」

「いいよ」

「?」

「自由につかえって言ってた」


銀時は軽く頭を掻きながら立ち上がり、抱えていた刀を左手に持つと部屋を出て行った。


「ぁ、ちょっ・・・おい!待てよ!」

「晋助!」


その後を追いかけ、2人も部屋を後にする。少し離れた所からでも銀髪は目立ち、見失う事はなかった。











「・・・ヅラ、無断でつかっていいのか?」

「おれに聞くな」

「だってあいつもう作ってんじゃん」


銀時を追いかけ着いた場所は、いつも松陽が使っているであろう調理場。銀時は、ここで堂々とご飯を炊き始めていた。

どうやら、おにぎりを作るらしい。


「・・・おい、お前!・・・無視すんな!」

「・・・おれ?」

「そうだよ!」

「なに?」

「っ・・・ここ、勝手につかって良いのかよ」

「良いって言ってた」

「せんせいが、か?」

「そう」


晋助と初めて目を合わせた銀時。しかし、ひるんだのは晋助だけで、銀時が動じることはなかった。

それが気に食わなかった晋助が苛々し出した数分後。炊き上がった米を、銀時がおひつに移す。


「「・・・・・」」

「・・・」


ここまでは、ほぼ完璧な動きをしていた銀時。ところが、いざ米を握ろうとする手付きは不器用としか言いようがない。


「・・・お前下手くそだな」

「晋助!」


直球で言い放つ無神経な晋助を小太郎が注意する。しかし、その言葉が銀時の心に火をつけたのか、晋助に反論をしてきた。


「腹に入ればおなじだろ」

「わかってねぇな。おにぎり1個のかたちも、心を込めることも料理のうえでは大切なんだよ」

「心を込める・・・?」

「晋助の家は、そう言うとこしっかりしてるんだ」


眉を寄せた銀時に、小太郎が小声で耳打ちした。


「じゃあお前やってみろよ」

「お前にお前なんて呼ばれたくねぇ!おれの方が先輩だぞ!」

「おれお前の名前知らねぇもん」

「『お前』って呼ぶな!おれは高杉晋助だ!」

「おれ、銀時」

「!ッ・・・知ってるわ!!」


2人が初めて話したとは思えないやり取りを繰り広げるので、小太郎は笑いそうになるのを堪えてチラチラと2人を見ていた。


「おにぎりはこうやって握るんだよ!」


手つきは荒々しいが、一生懸命作っているのが伝わってくる。そして形のきれいなおにぎりが晋助の手の中で出来上がった。


「なかなか上手いな晋助!さすがだ」

「だろー?・・・、ぎ・・・銀時!お前にこのおにぎりやる。おれのお手本にして作ってみろよ」

「晋助はいつも上から目線だな」

自慢げに小太郎と銀時に見せつけた晋助は、その形の良いおにぎりを手渡した。


「・・・(もぐもぐ)」

「どうだ??不味いか?」

「おいヅラ、聞き方が違うだろ」

「ヅラじゃない、おにぎり職人だ」

「誰だよ!!」


自称おにぎり職人の小太郎は、自分も作ろうとおひつから手のひらサイズのお米を取る。横からお米の量が多いだなんだと口を挟む晋助が騒ぐ中で、銀時がつぶやいた。


「・・・、・・・まぁまぁ」

「まぁまぁだとォ!?」

「次はおれの作ったおにぎりを食べてみろ銀時!」


せっせとおにぎりを作る小太郎と、絶対に美味しいと言わせてやる!!と燃える晋助。


「(・・・)」





本当は、すごくおいしいと思った気持ちを、もう1度おにぎりにかぶりついて隠す。


慌てて食べたせいで、むせる銀時に小太郎が背中をさすってあげていた・・・




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