環境の変化は
時に、幸せを運び
時に、不安を呼ぶ
共通することは
人を成長させるという事・・・
てのひら2
「お前ッ・・・すたんどだったのか!?晋助・・・!!」
「?!・・・は?」
小太郎が廊下に飛び出し発見したのは、いきなり出てきた彼に驚いた塾生・高杉晋助だった。
「なに?すたんど?わけわかんねぇ事言うな馬鹿」
晋助は、なかなか稽古場にやって来ない小太郎を不安に思った松陽に頼まれて、様子を見に来ていたのだ。
馬鹿呼ばわりされた小太郎は、銀時に教わった通り『すたんどはすたんど以外の何者でもない』と説明するが、晋助は、もう一度「馬鹿」と言い、早く来るように急かしただけだった。
「晋助、此処にずっと居たのか?」
「ちがう。今来た」
「なに?!やはり此処に居たのは・・・すたんど!?」
「お前が来ないから、稽古できなくてせんせい困ってるだろ!」
「あ、そうだった!」
晋助に軽く無視されながら、ハッっとした小太郎は急いで何を頼まれていたのか思い出そうとする。
「えっと・・・あ、思いだした!」
部屋に戻っていった小太郎の後を追い、晋助も中に入った。
「お前せんせいから何を・・・!」
頼まれたのか。
そう聞こうとした晋助が止めたのは、銀髪と刀が目立つ例の子供が居たから。
小太郎だけが居るものだとばかり思っていたので、少し警戒心を強める。
どうやら晋助は、まだ銀時を受け入れてはいないらしい。
「なんだ、胴着着れたのか」
「着方ぐらい、しってる」
「・・・」
小太郎と話す銀時に、ますます眉間の皺が深く刻まれた。
「じゃあ行こう!銀時」
「!・・・、」
「ん?・・・どうした??」
「・・・・・別に、」
「名前で呼んだらダメだったか?」
松陽から呼ばれることも慣れていない中で、小太郎から呼ばれるのでは、また違った感覚があり照れくさかった。
「・・・ヅラ、ちょっと」
「ヅラじゃない、桂だ」
「いいから早く」
2人の様子を黙って見ていた晋助は銀時から少し離れたところに、小太郎を呼び出した。
「なんだ?」
「なんだ?じゃねぇよ。なんであいつと仲良くしてんだよ」
「仲良く?仲良くしていたかは別として話をしていただけだ」
「名前で呼んでたじゃんか」
「おれはお前のことも名前で呼んでるだろう」
「生まれたときから知ってんのと今日知り合ったんじゃわけが違う!」
「なにが言いたいんだ晋助」
「な・・・なにって・・・別に」
「友だちになりたいのなら笑顔を忘れるなよ。お前はどちらかというと無愛想だからな」
「だれがあんな銀髪なんかと!!言っとくけど、おれよりお前の方が無愛想だからな!!」
晋助の声は大きく、この様子だと銀時に聞こえてしまっているだろう。
同様に、部屋の前に立っていた人物にも聞こえていた。
「やはり、ミイラ取りがミイラになっていましたか」
「「「!」」」
部屋の入口から聞こえた松陽の声に、本来の目的を一瞬で思い出した。
話し方から、多少呆れているのが伝わってくる。
「小太郎、銀時に胴着を着てもらったら連れてくるようにと言いましたよね?」
「!はい・・・」
「晋助、様子を見て来るように、私たちが待ってると伝えるようにと言いましたよね?」
「・・・・・言いました・・・」
「銀時はもう着替えを終えているのに、何をもめているんです」
「・・・・」
松陽に注意され、下を向いてしまった小太郎と晋助を銀時は黙って見ていた。
「・・・仕方ないですね。さ、2人とも顔を上げて。皆が稽古場で待ってますよ」
松陽は落ち込んでいる2人の傍までやってくると、大きな手で2人の頭を撫でた。
暖かな手のひらが、2人の表情を笑顔にしていく。
「・・・はい!」
「せんせい!今日はおれに稽古つけて!」
「あ!晋助ずるいぞ!!」
「皆に稽古つけてあげますよ、さすがにこの部屋では無理がありますから、稽古場に行きましょう」
小太郎と晋助は、早く稽古場に行こうとでも言うように松陽の手を握り、引っ張った。
「・・・」
そんな彼らは銀時の目に、
どう映ったのだろう。
銀時は視線を3人から外していた。
このまま、ここに居る事に気付かれず
置いて行かれるのだろうか
今はそれがすごく怖く思えた・・・
「銀時、」
「!」
「行きますよ」
「・・・・」
松陽に名前を呼ばれただけで、さっきまで駆られていた不安が消えていく。
置いて行かれる恐怖を知り、初めて誰かを・・・松陽を必要としていることに気が付いた。
「銀時!置いていくぞ!」
「・・・う、ん・・・・・」
『銀時』
その名を呼ばれることに
幸せを感じ始めていた・・・
◆
「・・・気に食わねぇ」
稽古場で、今日何回目かの愚痴を零す。いつもより、機嫌が悪そうに見えた。
「さっきから何だ。せっかくせんせいが稽古つけてくれたのに」
しかも他の塾生より、長く相手をしてくれていただろう。
小太郎は、髪の毛を結びなおしながら晋助の愚痴に返事をした。
「他のやつらより長く相手してくれてたのは、あいつが来る前の話だ」
「あいつ?・・・あぁ、銀時か」
晋助が真っ直ぐ見つめている先には、たった今松陽と稽古をしている銀時の姿があった。
その動きは初めてとは思えず、筋が良いと松陽に誉められた晋助でさえ、一目置くほどだ。
「松陽せんせい・・・今日は、おれよりアイツを長く相手してる」
「女々しいな。そんなんじゃ侍になれないぞ!」
「よけいなお世話だ!」
「・・・やつの動きからして、はじめてではないな。刀も持ち歩いていたようだし」
「・・・何者だ?あいつ・・・」
晋助の中で、銀時に対する疑心が大きくなり始めていた・・・
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