現在、午後7時。だいぶ日が長くなってきたせいか、集合時間は1時間遅くなっていた。

少しさび付いた屋上の扉を開ければ、そこにはオレンジ、赤、紺色の神秘的な空が広がっている。西に傾く太陽が、地平線に沈もうとしていた。


「え、・・・」

「あはははは!!金曜日は忙しくなるぜよ!!」


この幻想的な空の下、聞かされた話はまさに夢のようだった。







抜けた日々3








数日前、坂本に届いた、地学部入部希望者名簿。

[入部]のところが[1日体験]に変更となったが、忙しい中、銀八のクラスの生徒は日程を合わせて、ほぼ全員名乗りをあげていた。

坂本は、陸奥に仲間がいる部活を体験させることができると、いつもより大きな声で笑い、喜んでいた。

しかしその反面、坂本には1・2年生が入部希望に来なかったことを心残りに感じていた。もちろん、それを陸奥に話すことは無かったが・・・。

そして今、1日体験の概要を陸奥に伝えたのだった。


「陸奥と金八の生徒とで星を観るぜよ!」


ハシャぐ顧問をしり目に、少し笑みを浮かべた陸奥は徐々に暗くなる空に携帯を向け、淡々と写真を撮っていた。













ザーッ・・・・・



「・・・・・」

あれから数日後の金曜日、1日体験の日は梅雨前線による影響で、朝からあいにくの雨にみまわれた。


「・・・はぁ・・・・・」


放課後になれば止むかもしれないと、淡い期待を抱いてはいたが、窓に打ちつける雨は勢いを増している。

陸奥は1人、誰もいない部室で窓の外を見ていた。



ガラララッ



「・・・・・、中止なのは、わかっちゅう」


部室の扉が開き、誰かが入ってきた。気分は落ち、わざわざ振り返って確認するほど部員が多く居るわけでもなく、どうせ坂本だろうと思い、陸奥は背を向けたまま話を続ける。


「けんど、どうしてもZ組のみんなとやりたかったき。まだ7時までは時間あるし、雨・・・止むかもしれん」

「・・・・・」

「そう思っちょったら、帰る気になれんがじゃ・・・ッ」


この日が来るまで、陸奥は1人で準備をしていた。

初めてでもわかりやすく星の説明をしようとしたり、今まで撮りためてきた写真を見せようとしたり、必死で知恵を絞ったのだ。

だが・・・空は、そんな陸奥の努力を報いはしなかった。


「・・・、」

「・・・でも、おまんが・・・先生が1日体験の希望者募集してくれんかったら・・・色々準備することも無かったぜよ。良い思い出じゃ」

「・・・・・」

「中止でも・・・まっこと楽しめたち」


陸奥は椅子から立ち上がり、窓のカーテンを閉めた。


「中止は中止でもよぉ、・・・外でやるのは、な」

「!・・・、」


部室の入り口から聞こえてきた声は、いつもの土佐弁丸出しの声ではなかった。

気怠そうな中に、芯のある声。それが3年Z組の坂田銀八のものだとすぐわかった。

同時に、何を1人で語って・・・と、顔を赤くする。


「・・・あの、」

「あ?」

「坂本先生は・・・?」

「今お前呼びに行けって俺が言われたとこ。とりあえず、ついて来い」

「はぁ・・・、」


国語の教科書で隠しきれていないジャンプを小脇に抱えた銀八に言われ、疑問を抱きながら、通学鞄を持って部室を後にする。



廊下を歩いている途中、銀八はあることを口にした。


「・・・さっきよー、」

「!」

「Z組の奴らと[1日体験]やりたかったっつってたよな?」

「、・・・はい」

「でもよ、1年も2年もいねぇし、3Zの奴らなんざ変な話、入部したとしても・・・廃部は免れねぇだろ?」

「まぁ、」

「正直なところ、そこらへんはどう思ってんだ?」


陸奥は自分の歩幅に合わせて進んでくれる銀八を横目に見ながら、その問いかけに思わず笑った。

彼女の反応を不思議に思っていると、当然だとでも言うようにこう語った。


「・・・廃部になって欲しくないんはもちろんじゃき。けんど、だからってそれに固執するつもりもないぜよ」

「・・・」

「1日体験に来てくれる事に、1年も3年も変わらん。いつだって歓迎じゃ。入りたいか入らないかは、相手が決めることやち」

「・・・」

「やるだけやって廃部になるなら、それもそれぜよ。あとは・・・坂本先生に任せるき」

「・・・そうかい。こりゃ若ぇのに肝が据わってるわ」


銀八は白衣のポケットに手を閉まって、軽く笑った。










「辰馬ー、連れてきたぞ」

「おぉー!!」


教室の前で扉をノックし、坂本の名を呼ぶと、中からもじゃもじゃ頭が出てきた。


「よく来たぜよ陸奥!」

「先生・・・何をしゆう?」


坂本がニコニコしている間に、銀八は真っ暗にされている教室に入っていった。


「真っ暗で中が何も見えん・・・」

「ま、入ってからのお楽しみぜよ!」


陸奥は坂本にキャスター付きの椅子に座らされ、真っ暗な教室に入れられた。

部屋のある場所で椅子を止め、ここで待っちょれ、と一言告げるとどこかに行ってしまった。


「ちょっ、坂本先生っ・・・」


背後に坂本の気配がなくなると、変に心細く感じた。天体観測をする暗闇とは全く違う。

不安に耐えきれず椅子から立ち上がろうと、足に力を入れた時だった。






パッ








「?!・・・・・わ、ぁ・・・」



教室の天井に数え切れない程の星が現れた。丸天井でないにも関わらず、映し出される星空は神秘的で美しい。

しかしこの空間から時折、「チャイナ退けよ!」「今私の番ネ!」と相応しくない、もめ事が聞こえるのは目をつぶっておこう。


「すごい・・・」

「これ、坂本先生に指示をもらって私たちも手伝った手作りのプラネタリウムなの」

「!お妙ちゃん、」

「今日は雨だから、自習しろって坂田先生が。しかも工作の自習だって言って」


天井に映った星空を眺めていると、となりにお妙がやって来た。坂本が機械を得意としていたのは知っていたが、プラネタリウムをこの短時間で作ってしまうとは相当な腕である。

また、銀八の無茶苦茶な理由から始まった自習と言う名の製作時間。みんなが製作している様子を想像すると、胸がいっぱいになった。


「いやぁこんな美しい星空をお妙さんと見れるなんて幸せだなあ!!」

「何暗闇に紛れて肩に手を回しとんじゃクソゴリラァァ!!!」

「ドゥブシッッ!!!」

「あんたが廃部寸前の地学部をなんとかしようと、土方抹殺クラブに入部希望したって言う陸奥ですかィ?」

「どんな理由?!?つーかなに人を抹殺しようと企んでんだコラ!!!」

「あ、間違えやした。土方抹殺クラブ(改)でしたねィ。こっちは土方を何が何でも抹殺するクラブでさァ」

「(改)ってどこ変えたの!?!何も変わってなくない!?」

「おい、高杉。お前は飾りのお花を1つ作るのに何分かかっているのだ。もう少し早くやれ早く」

「今、北斗七星探してんだよ。てめェは黙ってろや」

「もう陸奥さん来てるんですけど!!お花もう良いから!!ってか北斗七星って・・・」

「陸奥ちゃん、このゴリラを火星まで連れて行くにはどうしたら良いかしら?」

「火星じゃと、戻ってくる可能性は高いぜよ。私はブラックホールをオススメするき」


段々と騒がしくなる教室は、天体観測をしようと言う集まりには思えない。

だが、天井に星を映し出したことでうっすらと見える生徒の笑顔が、嬉しかった。


「ったくあいつら・・・何考えてンだか」

「あはははは!さすがおまんの生徒ぜよ!」

「騒がしさと1ヶ月の教室修理代だけは、どのクラスにも負けねぇよ」


生徒を見守るように、窓側の壁に寄り掛かり言葉を交わす2人の教師。

この騒音の中で、銀時は横に居る坂本に伝えてやりたいことがあった。


「・・・お前んとこの生徒、お前に似て馬鹿だな」

「あははは・・・ん?・・・な?!なにを言いゆう?!いくら銀八でも許さんぜよ?!」

「やるだけやって廃部になるなら、それはそれだとよ。後はてめぇに任せるらしい」

「!・・・」

「どっちも相手のことしか考えてねぇ・・・お人好しでアホの似た者同士だ」


驚いた坂本は、さっきまでの怒りを忘れて目の前で友人と戯れる陸奥を見つめた。



今、坂本は何を思うだろう・・・


「・・・・・まっこと、アホ者同士じゃ・・・」

でも、それも悪くないぜよ





顧問も部員も、手作りのプラネタリウムが映し出す星が、今まで見てきた空の中で1番だと思えた・・・




end...







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