見えない絆2
「おい!!銀時!!」
「どういたがじゃ?!」
激しい痛みに襲われる中、高杉と坂本の切羽詰まった声が聞こえた。ジクジクと痛む傷が俺の呼吸を乱していく。
俺の部屋の襖に片手を添え、もう一方の手を床について体を支えた。
「おまんっ、やっぱりこれ天人の血じゃないろう?!」
「っ・・・ぐッ・・・」
「この馬鹿がッ」
「銀時?!どうしたのだその血は?!」
「ヅラ来んの遅ェよ!!早く救護班呼んで来い!!」
「ま・・・まてっ・・・」
「「「!?」」」
引き留めた自分自身の声が思いのほか、か細いことに驚いた。
「銀時っ、しっかりせぇ!!」
「なに・・・慌ててんだよっ・・・しっかりすんの、は・・・お前らだ」
「馬鹿者!お前がこんな傷で帰ってくれば慌てるに決まっているだろう!」
「・・・も、わかった・・・から、救護班っは、呼ぶな・・・っ」
「何でじゃ?!」
「他のっ隊士に・・・示し、つかねぇだろっ・・・ゥッ」
寺の入り口では他の隊士の目があって、そんなところでぶっ倒れるなんて格好悪い真似、俺にはできなかった。
「そんなことっ、・・・まったく貴様は!大馬鹿だな!」
「っ」
「・・・今から救護道具をもらってくるっ。俺の治療は染みるからな!」
ヅラは背を向けたまま荒治療宣言をし、俺たちのもとを離れていった。
「はぁ・・・、はぁっ・・・」
「金時は馬鹿ぜよ!!」
「・・・んだよ、・・・お前にっ・・・言われたく、ねぇ!・・・っ」
「ワシらの威厳を保つために、自分の命張ることないじゃろ」
「!・・・」
「てめェなんぞに守られるような威厳は、1つも持ってねェよ」
「・・・けっ、可愛くねぇの・・・っ」
「可愛げなんざ求めんじゃねぇよ。気持ち悪ィ」
こっちは話すたびに傷が痛むというのに、あぁ言えばこう言う高杉にイラっとした。しかし、顔を上げることも億劫なこの状況では、睨みつけるのが精一杯だった。
「けんど・・・銀時」
「・・・」
「ワシの部下を見捨てないでくれたこと、感謝するき」
辰馬は真面目な顔をして、俺に頭を下げた。「てめぇのためにやったんじゃない」と言えば、一言「わかってる」とだけつぶやいて頭を上げた。
「そういう話はあとだ。とにかく、そっち支えろ坂本。治療は部屋の中でやる」
「金時、立てるがか?」
「あ・・・あぁ・・・っ」
俺の右腕は高杉の肩に回され、俺の左腕は辰馬の肩に回され支えられる。部屋に入ると、壁によりかかるよう座らされた。
「はぁっ・・・はぁ・・・」
「どこやられた?」
「な、に・・・高杉、治療っ・・・できんの・・・?」
「傷口悪化させることならできる」
「ハッ・・・ぜってぇ・・・っ、教えねっ・・・」
もう言葉を発するのも面倒に感じてきているのに、くだらない冗談だけは言い合えた。もうされるがままといった様子で、高杉が血だらけの服を引き裂いていく。
もともと袖は引きちぎっていたものだから、もう着れるものではないしちょうど良い。新しいのを呉服屋で買わないと・・・と、思考はあらぬ方向へ進んでいた。
「ここか」
高杉が体中にある傷の中で、特に深い傷をみつけた。やはり、どの傷よりも痛みを感じていた左わき腹が一番悪いらしい。
「ヅラはまだか?ちっくと遅いぜよっ」
「すまない、待たせた」
「遅ェよ」
「調理場に行ってお湯ももらってきたのだ」
救護道具とお湯をもったヅラが俺の前に座った。すぐさま消毒液とガーゼを取り出し、治療に取り掛かる。
「染みるぞ」
「あぁ・・・・・・ン゙ッッ・・・・・ッ」
左わき腹に走る激しい痛みに、呼吸が止まる。久々に感じた痛みだった。
林の中では立場が逆だったこともあり、だらしないと奴を笑ったが今は奴の気持ちが痛いほどわかった。事実、ものすごく痛い。
「はぁっ・・・い・・・ッつ・・・」
「・・・よし、ここは縫合するから横になれ」
痛みでもう声も出ないがヅラに言われた通り横になろうと努力する。、だが、結局高杉と坂本の手を借りることになった。
「高杉、俺がここを縫合するからお前は肩の傷の消毒を頼む」
「あァ」
「ワシも何か手伝いをっ」
「坂本は包帯を準備しておいてくれ」
「・・・・・」
痛みで意識が朦朧としてきた俺は、そんな会話のさなか眠りにつこうとしていた。
最後に見たのは、ヅラと高杉と辰馬が真剣な表情で俺を治療してくれる姿だった・・・。
◆
「・・・・・ん、」
「お・・・おぉ?!銀時!目が覚めたか!!そうかそうか!!よかったきに!!あ、高杉とヅラに教えてやらないといかんぜよ!!まっこと一時はどうなるかと思ったけんど、元気そうで何よりじゃ!!おまんが寝てる間にたいしたことはなかったが、なんせ煩いおまんがいなくて寂しくて「うるせー!!!」へぶしっ!!!」
ゆっくりと目を開けると、視界には天井ともじゃもじゃ頭。このもじゃもじゃはなんだろうかとうまく働かない頭で考える間もなく、耳元で話続けるウザい何かに布団から上体を起こし、アッパーカットをお見舞いしていた。
が、同時に左わき腹に感じた強烈な痛みに、思わず前かがみの姿勢をとる。
「いッ?!・・・っつ・・・ッ!!」
「あはははは!痛いぜよ〜」
「痛ぇのはっ・・・こっちだ!ばっかやろ・・・っ」
「病人はおとなしく寝てろよ銀時ィ」
涙目になりそうなのを堪え、声がした方に顔を向けると、案の定人の不幸を楽しむような笑みを浮かべている高杉がいた。「傷口が開くぜ?」と言ったのでだろうが、「傷口こじ開けるぜ?」と聞こえてしまったのは俺の耳が問題なのだろうか。
「あー・・・痛ぇ・・・。まじ死ぬかと思った」
「それはそれで面白ェな」
「何物騒なこと言ってくれてんだコラ!」
「ツッコミが甘ェし、弱ェよ」
「うるせぇよ!大声出すと傷が痛むんだよ!お前にそんな注意を受けるとは思わなかったけどね!」
「どうやらいつものお前に戻ったようだな、銀時」
「次から次へと・・・」
まるでどこかから見ていたかのように、俺が目を覚ました直後部屋に集まってきた2人。そのタイミングの良さに俺は若干引き気味だ。
坂本の顎が赤いことを気にするヅラに、病人の部屋の中で堂々と酒を飲む高杉。もう出て行ってくれないかと切に願った。
「して、銀時。調子はどうだ?あれから2日間眠り続けていたから、腹も減っているだろう」
「2日も寝てたのか。まぁ・・・減ってるっちゃ減ってるけど・・・なぁ、そんなことより・・・辰馬」
「ん?なんぜよ?」
「お前んとこの負傷した隊士・・・どうだ?」
「順調に回復しちゅう!何の心配もいらんぜよ!」
「!・・・誰も心配なんざしてねぇよ。俺がせっかく連れてきてやったのにどうにかなってたらたまったモンじゃねぇって意味で聞いただけだ!」
「あいつ、銀時に感謝してるって言ってたぜ」
「あ?」
「意識が朦朧としゆう中で、自分を背負いながら天人と闘ってくれてたのを感じてたって・・・涙流しながら話してたんじゃ」
「・・・・・」
「ま、そいつも今は療養中でお前に礼を言いたくても言えぬようだがな。・・・お前も今は傷を治すことだけ考えておけ」
「・・・わぁってるよ」
白夜叉は仲間から恐れられている。
それは直接言葉にされなくても、肌で感じ取っていたこと。
だけど、奴みたいに心から感謝してくれる者もいるのだと思ったら、不思議と気が楽になった。
『この恩は一生忘れませんっ・・・っ』
あのときの言葉を思い出して、早くそいつの怪我が治ることを、俺はひそかに願っていた・・・
end...