ない絆




「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

「おい、しっかりしろっ」

「銀時さんっ・・・俺のことは良いんで早くっ逃げ「黙ってろ!それ以上しゃべったら夕餉の甘味奪うからな!!」」


ある1人の隊士を、天人の亡骸が転がる中でみつけた。そいつは坂本部隊の1人で、今日割り当てられている坂本部隊の場からかなり離れたところにいた。どうやら天人と闘ううちに、はぐれてしまったらしい。

奴はだいぶ負傷していて、もう死を覚悟していた。そんな奴を俺は自分の割り当てられた戦場と近かったこともあり、たまたま見つけたのだ。

心身ともに弱りきった奴に、弱音を吐くなと叱責し、自分の服を切り裂いた布で止血をする。

どこか休めそうな場所はないかと、辺りを見渡せば、運悪く生き残っていた天人に見つかってしまった。瞬時に奴の腕を自分の肩へ回し、とっさに身を隠したのが少し離れたところにある林だ。

日が沈み始めていたこの時間に、暗い林の中へ入るのは自殺行為だと思ったが、天人を撒くにはこれ以上にない絶好の場だった。それに、この林は昔からよく遊んでいた場所で、中はだいたいは把握できている。

そして今、俺とそいつは林の中を走り回っていた。

「おい、平気か?」

「はっい・・・、なんとかっ」

苦痛に顔を歪ませる奴は、どう見ても平気そうに見えなかった。何度も後ろを振り返り、天人が追いかけてくる気配が無くなったことを確認して足を止めた。

「・・・撒いたか」

「はぁっ・・・その、ようですね・・・っ」

「しっかりしろ。今傷見てやる」

生い茂る草木で人目につかないようなところを選び、奴をそこに座らせた。たまたま持っていた消毒液の瓶を開けて、布にしみこませる。

「ちょっと耐えろよ」

「はい・・・」

傷口にそれをあてがえば、ビクリと奴の体が跳ねた。だらしねぇなと笑ってやれば、奴は「すみません」と、苦笑を浮かべた。

腹にできた大きな傷に、再び自分の服を切り裂いて包帯代わりに巻いた。しかし現状は変わらず、奴はぐったりしている。早急に救護班に診せたほうが良いが、だいぶ日が傾いていてまさに一寸先は闇といった状況だった。

「銀時さん・・・」

「あ?」

「すみません、ありがとうございました・・・」

「何謝ってんだよ。謝る力があるなら、ここから出る策か坂本達に知らせる術を考えろ」

「・・・はい・・・あの、」

「今度はなんだ?」

「・・・すみませんでした」

「だからもういいって「そうじゃなくて!」!」

俯いたまま、そいつは自分の手にグッと力を込めた。

「今まで、俺・・・銀時さんのこと・・・正直怖くて・・・」

「・・・・・」

「でもっ、俺の・・・俺の命救ってくれて・・・っ」

「・・・・・」

俺は泣きそうになっている奴を見下ろした。だけど、居た堪れなくなってそいつに背を向ける。


こういうのには慣れていなくて、ひどく居心地悪く感じてしまう。昔からのクセみたいなものだ。

でも、嫌などではなくて・・・どう対応していいのかわからないだけだともわかっていた。


「もう、いいから」

「はい・・・この恩は忘れませんっ・・・っ」

「それは・・・ここから出られたときに言うモンだろ。・・・だから、」

「・・・・・」

「生きること、あきらめんな」

俺の背後から、小さい返事が聞こえた。しばらく心を落ち着かせてやろうと思い、そいつと距離を置く。

諦めるなと言った手前、こいつを死なすわけにはいかないと理由を作り、俺は再び現状を脱する策を模索し始めた。

いくらよく遊んだ林と言えど、夜の林は初めてだ。それに、いつどこで天人が襲ってくるかなども予測しなければならない。もし負傷者と俺に対し、天人100に迎え撃つなどとなれば、容易い話ではないだろうからだ。

「・・・銀時さん」

「!どうした」

「あれ・・・なんでしょう?なにか・・・光ってます」

奴が指をさした先に目を凝らしてみると、確かになにか輝くものが見えた。暗闇を手さぐりで木に触れながら、それが何か確認しに行く。

「・・・!ここは・・・」

俺の目に映ったのは、月明りで反射した川だった。それも、この川こそ林の中央に位置するもので、昔よく来ていた場所だった。この川の下流に向かって歩いていけば、林を抜けられる。

俺はすぐさま奴のもとへ戻り、この良い知らせを教えてやろうと意気込んだ。

「おい!でかしたぞ!あれは川の水が・・・、ちょっ、おい!しっかりしろ!おい!!」

ところが、そこにはさっきよりもさらにぐったりとした奴が虫の息となって倒れていた。傷口を確認すると包帯代わりの俺の服に、大量の血が滲んでしまっていた。

「っ・・・クソっ!!」

すぐさま奴を背負い、俺は暗闇の中を走った。月明かりを頼りに石だらけの足元を下流に向かって、必死に足を回す。

川のせせらぎと俺の荒い息が、妙に大きく聞こえた。

「こんなとこでッ・・・死ぬんじゃねぇぞ!!コノヤロー!!」

俺は自分の背に背負った命の灯を、必死で守ろうとした。どうにか持ち堪えてほしい。それだけを願っていた。

「!!」


だがそれも、叶えることは容易ではないようだ。

目の前に数人の天人が行く手を阻んでいるのだから。


『グフゥ・・・白、夜叉ァ・・!!』

「っ」


俺は奴を背負ったまま、腰から刀を抜いた。左手で奴を支え、右手で刀を持つ。

「てめぇら、さっき俺たちを追ってきたやつらだな」

『殺す・・・殺す・・・!!』

「悪いがそこ、通してもらおうか。てめぇらなんぞに割く時間は俺の持ち時間にねーよ」

そんな話が通用するはずもなく、天人自らの武器に手をかけた。

「退かねぇなら・・・・・殺すまでだ」

刀を構え、俺から仕掛けに入る。

川のせせらぎが、いつのまにか聞こえなくなっていた。











「坂本さん!!!2人が帰ってきました!!!」

「っ?!どこぜよ?!?」

「こっちです!!!」

遠くからそんな会話が俺の耳に伝わってくる。俺の名を呼ぶ声も段々と近くなり、駆け寄ってくる隊士たちも、この目に捉えることができた。

「銀時さん!!お怪我は?!」

「全部天人の返り血だ。それよりこいつを頼む」

「はい!!・・・おい!!みんな手を貸せ!!」

「しっかりしろ!!救護班を呼べ!!早く!!」

「こっちだ!!こっちに運べ!!」

すぐさま奴をほかの隊士に引き渡し、「あとを頼む」とだけ告げた。目の前で数名の隊士が迅速に対応する中で、一際大きく俺の名を呼んだ男が駆け寄ってきた。

「金時ー!!!!!」

「っ・・・ばか、銀だっつの」

「無事か?!」

「あぁ」

「その血は「悪い、坂本・・・ちょっと良いか」」

待て、と言う坂本の横を通りすぎて、ずんずん寺の中に入っていく。自室の前で、そろそろヤバいと感じた時、俺の部屋と隣接する部屋から高杉が出てくるのが見えた。

「銀時!お前今までどこにいやがった?」

「っ、あぁ?」

「お前の隊が、お前がいないって騒いで・・・って、お前・・・その血・・・」

高杉が近寄ってくることがやけにゆっくり見えて、床がグニャリと柔らかくなった気がした。


「(・・・あ・・・や、べ・・・)」




ドサッ





「「?!」」


そう思ったときにはすでに遅く、俺は自分の体を支えきれずに足から崩れ落ちた。



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