「お・・・おぉ、ワシぜよ〜・・・・」

「・・・え?」

なんか・・・暗くね?







〜第三章・参〜








「・・・」

「「・・・」」

「「「・・・・・」」」


空気が重い。

あの空気が読めないヅラでさえ、ただならぬ雰囲気を感じ取り黙っている。

先ほど万事屋を訪れた客人。そいつは攘夷戦争時代を共に過ごした坂本辰馬・・・だと思う。しかし、今の辰馬の様子は俺らの目に異常な光景として映っていた。

坂本辰馬は俯くことすら知らないような、つねに笑っている男だったはず。だが、目の前の男は俯いたまま一言も発しないのだ。

堪らず俺は、ヅラに「(こいつ…誰?)」と問うような視線を向けた。

「(なぁ・・・こいつほんとに辰馬?こいつこんな静かだっけ?もっとうるさくなかったっけ?)」

「(俺もそのような気がするのだが・・・しかし、あのもじゃもじゃ頭は坂本だろう)」

「(わかんねぇよ?もしかしたらパーマあてすぎたそこらへんのおっさんかもしれねぇよ?)」

「(パーマあてすぎたおっさんの割には加齢臭がしないぞ)」

「(加齢臭すんのはお前の飼ってるペットだけだろ)」

「(ペットじゃない。桂だ!いや間違えたエリザベスだ!)」

「(なんでもいいからお前話しかけろよ)」

「(俺は煎餅を食べるのに忙しいんだ。貴様は手が空いているだろう)」

「(どんな煎餅食ってんだよ!食うのに忙しい煎餅なんてウチにねぇよ!!)」

「(世の中にはさまざまな人が居るように、煎餅にもいろいろあるのだぞ。固いやつとか、めちゃくちゃ固いやつとか、固すぎるやつとかな)」

「(どんな煎餅?!それもはや煎餅じゃねぇだろ!!ただの固いやつだろーが!!)」

容姿は辰馬に間違いないのだが、確信できずにいたので仕方なく、俺たちは目の前にいる男を心の中で『辰馬(仮)』と呼ぶことにした。

いろいろと面倒臭くなった俺は、一方的にヅラから話しかけるよう告げ、いちご牛乳を飲みほす。

ヅラが煎餅(固いやつ)を食べる音で「貴様が話しかけろ!」と無言の抗議をしてきたが、俺はそれ以上に大きい音で煎餅(固いやつ)を食べて無言の圧力をかけた。

「(・・・ったく、貴様というやつは!)」

「(んじゃ、任せるわ。行けヅラ)」

「(行けヅラじゃない、桂だ)」

ヅラは一口茶を飲み、まだ俯いたままの辰馬(仮)に話しかけた。

「・・・おい、坂本(仮)!」

「待て待て、(仮)は心の中での呼び名なんだよ。口に出しちゃまずいだろ」

「さっきは俺に任せると言っただろ銀時(仮)!」

「余計なところに(仮)付いてるゥゥ!!!なに人を(仮)扱いしてくれてんだてめぇ!!」

馬鹿と真面目を人並み以上持ち合わせたこいつに頼んだ俺が馬鹿だったと反省し、これ以上は、らちが明かないと判断すると素早く引きつった笑みを辰馬(仮)に向けた。

「よ・・・よぉ、辰馬。・・・っつーか、お前坂本辰馬だよな?」

もう直球で聞いた方が早いだろと自分自身に言い聞かせ、問いただしてみれば「何を言ちょるか金時」と言われたので、間違いないと確信した。

「お前何しに来たの?ってかいつもの馬鹿みてぇな元気はどうした」

「ちっくと、色々あったき。おまんらの顔みたくなって来たんじゃ。・・・あはは、すまんのぅ。今日はあんまり笑えん・・・」

そういえばと思い出したように、「(仮)って何じゃ?」という質問を「・・・なんでもねぇ」の一言で、何事もなかったかのように話を終えた。

「・・・その様子だと、いろいろってのは仕事で失敗した程度のことじゃないみてぇだな」

「あはは・・・相変わらず鋭いのぉ銀時」

「てめぇがわかりやすいんだよ」

「一体、何があった?」

「・・・実はな、・・・・・」


辰馬は思いもよらないことを口にした。


「高杉に、・・・会ってきたんじゃ」

「「!!」」

俺の知る限り辰馬と高杉は、事が起きたあの日以来、会っていなかったはずだ。

それに辰馬の言い方からして、偶然ばったり会ったわけでもなく、自ら赴いたように聞こえたから尚更驚いた。

「今までずっと、気にしてたことがあったき・・・それを高杉に確認しに行ったんじゃ」

そう言って辰馬が話し始めたのは、あの日・・・高杉に刺された傷のこと。

話が進むにつれて五感のすべてが記憶と結びつき、まるであの場に居るような錯覚を引き起こした。

「あいつ・・・そういえば、『なんで撃たないんだ』っつってたな」

「あぁ。坂本を刺した後の奴の表情を・・・俺は未だに覚えている」

「ワシは、・・・あのときの高杉を信じて、いろんな意味でまだ間に合うと、勝手に思っちょったき。会いに行くのはちっくと早かったかもしれんが・・・」


俺は不謹慎にも、辰馬のこの一言を少なからず嬉しく感じていた。

一番仲間思いで楽天家のこいつが、仲間に傷つけられたあの日

傷を負いながら自分のやり方で俺たちを守りたいと言ったとき、俺はいつか国どころか、今日のいざこざさえも覆してくれるかもしれないと期待していた。

それが今、現実となっている。

思った通り、辰馬は誰よりも早くいざこざを解決するために行動を起こしたんだ。

「その様子だと、なんの収穫もなしに追い返されたようだな」

「あはは・・・、ワシの力不足ぜよ」

自嘲気味に笑い、自分の不甲斐なさを嘆く辰馬。「そんなことはない」と言うヅラの言葉に何の根拠もないだろうが、辰馬の表情はいくらか明るくなっていた。

「でも、ワシは諦めん!これから何度か会って、いつか高杉と・・・おまんらと一緒に酒が飲みたいき」

「坂本はずっとそれを言っているな・・・」

「ワシの夢じゃき。夢は口にせんと叶わん」

「・・・辰馬、」

「ん?なんじゃ?」

「酒は上等な祝い酒、用意してくれんだろーな?」

「!」

「お前に、頼みがある」

「銀時・・・!、」

驚いた表情を浮かべた辰馬は、すぐに言葉の意味を理解し、大きな声で笑い出した。

「あはははは!!さすが金時じゃ!!あはははは!!」

「金じゃねぇっつーの!!銀だ馬鹿!!!」

今までの暗い空気は消え、俺らの間にいつもの活気が戻った気がした。

「てめぇは毎回毎回・・・」

「あはははは!すまんすまん!それで、ワシに頼みってなんじゃ??」

「実はよ、俺らも高杉に用があるんだわ」

「用って、どんなぜよ?」

「平たく言えば、あのチビとも酒が飲めるかもしれねぇってことだ。俺らの大事な人の力を借りられればの話だがな」

「野暮用でな。会いに行ってくる」

「・・・そうか。なるほど」

攘夷戦争に参加していたころ、辰馬に俺とヅラと高杉が同じ私塾に通っていたと話したことがあった。

問い詰めてくることはなかったものの、『先生』という存在が俺らの中でどれほどのものかは知っていると思う。

きっと高杉に会いに行く理由も、その『先生』絡みなのだろうと辰馬なら悟ったはずだ。

「鬼兵隊からの年賀状に住所が書いてあったんだけど、この場所わかるか?『銀河系 2042-88-★』ってとこ」

「これは住所と違うもんじゃ。宇宙空間の中では、細かい地名や番号なんて存在しないぜよ。あるのは、戦艦の番号じゃき」

辰馬は宇宙空間に居る人物と連絡を取る仕組みを説明してくれた。どうやら、船1つ1つに製造番号があり、それがいわゆる住所の代わりになるらしい。それを自分の船のコンピューターに入力し、相手の船の現在位置を確認して追いかけるという。

もちろん、船が無くても宇宙専用の郵便屋にまかせれば事足りる話でもあった。

「会うことは出来そうだな。問題は・・・直接知らせに行くかどうかという点だが」

「直接なんざ無理だろ。高杉と会った瞬間に、別世界で先生とご対面なんてことになりかねねぇぞ」

「それだけは避けたい」

「やっぱ手紙しかねんじゃねぇの?」

「貴様が俺たちからの手紙を奴は読まないと言ったのではないか」

「ったりめぇだ。見ずして燃やしそうだろ。・・・じゃあお前行く?直接」

「む、俺だけ行くのはおかしいだろ。行くのなら貴様も来い」

「嫌にきまってんだろ!まだ別世界行く気ねぇし」

「それは俺も同じだ」

「お前なら平気だよ。絶対戻って来れるって」

「何の根拠もないだろう!適当なことを抜かすな!俺が死ぬときは貴様も死ぬ時だ。死は道連れ世は情けと言うだろう」

「そんな恐ろしい言葉ねぇよ!!」

「あはははは!ほいたら、ワシも意見言っていいかえ?」

話が脱線したのを立て直すのにちょうどいいと思い、俺は辰馬に話をするよう促した。

「ワシが届けに行くゆうのはどうぜよ?」

「「・・・」」

「ん?・・・どうじゃ??」


玄関が開いてガキ2人の「ただいま」という声が聞こえたちょうどそのとき、俺たちは辰馬に感謝の意味を込めて、深々とあたまを下げていた。


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