あいつも、あいつも、あいつも
みんな勝手
でも、一番勝手なのは

『俺』







〜過去・参〜







あの出来事から数日後。

幕府は天人に、降伏。そして開国。
俺らが招いたのは・・・敗戦。


俺たちの戦が終わった。


「・・・・」

「銀時さん、俺たち・・・」

「・・・あぁ」

「・・・・・失礼します、・・・っ」

たった今、最後の最後まで残っていた数名の隊士達が拠点の神社を出て行こうとしている。俺は何一つ気の利いた言葉を口にしてやれないまま、参道へ続く門にもたれかかり、階段を下りていく少数の背中を眺めていた。

「・・・」

だいぶ冬に近づいた秋の風を頬に感じながら、彼らの揃わない足音に耳を傾ける。生い茂る木の葉で遮られ、数名の隊士たちは俺のいる階段の上から見えなくなった。

「・・・・・」

青い首巻きに顔を埋め、俺は隊士たちとは別の足音を待っていた。いつのまにか草履から下駄に変わった足音を。

「・・・金時、」

「銀時だっつーの。てめぇ最後まで覚えなかったな」

「あはははは!!覚える気がのぅなってしもうたぜよ!」

「素直に言えば良いってモンじゃねぇぞコノヤロー」

あの日、すぐに出ていくと言っていた辰馬だったが怪我のこともあり、大事を取って数日この場に留まらせていた。しかし、辰馬が宙に発つより先に幕府が降伏してしまったことから、皆同日に神社を後にすることとなったのだ。

その間、高杉と遭遇させまいとヅラと気を張っていたが・・・あいつが帰ってくることはなかった。

「ずいぶん身軽そうだな。旅の支度間に合わなかったのかよ」

「いんや。ワシにはこれだけで十分じゃき」

「・・・あぁ。それもそうだな」

辰馬は隠し持っていた銃を着物の合わせ目からのぞかせた。どうやら背中に背負った包み一つとそれがあれば、道中の心配は無用のようだ。

「あ、これ持ってけよ。ヅラが作ったんだと」

「おぉー!握り飯かえ!嬉しいぜよ!ほんで、肝心のヅラはどこじゃ?」

「さっきまで居たんだけどな・・・あいつの隊は西から来た奴らが多いらしいから、反対側で見送ってるかもしれねぇ」

辰馬が俺の話を聞きながら、タケノコの葉で包まれたおにぎりを嬉しそうにしまう。具は何かと聞いてきて、あいにく塩むすびだろうと答えてやっても、奴の表情は明るいままだった。

「そうか・・・ほいたらお礼言っておいてくれると助かるき!『ヅラのなら安心ぜよ、金時の作ったものだったら甘い握り飯になるところじゃった!』とな」

「それを俺の口から言わせる気かよ!甘ぇの持たせてやろうか?あァン?」

「あはははは!!そんな物貰ってしもうたら災難ぜよ!とんだ船出じゃ!!」

「おーし、待ってろ。今作ってきてやる」

「やめとうせ金時〜!死んでしまうぜよー!あはははは!!」

「銀だっつの!!!人のこと傷つけんのも大概にしやがれ馬鹿本!!」

俺は今更ながら、こいつの行く末が不安になってきていた。こんな人の名前もまともに覚えられない(唯一、当たってるのは『ヅラ』だけ)馬鹿が、宙に行って通用するのだろうか。

俺は頭を抱えながら、最終確認の意味も込めて辰馬に問いただした。

「・・・お前さ、俺の名前もまともに覚えてねぇのにこの先やって行けんのかよ?宙にヅラみてぇな世話焼きが付いていくわけじゃねぇぞ?」

「・・・確かに、それもそうじゃ」

案外あっけなく認めたことに、意表を突かれたのは俺の方だった。しかし、あくまでも決意を変える気はないように思えた。辰馬の目に映る強い意志が、すべてを物語っていたからだ。

「ほいたら・・・おまんも来るがか?銀時」

「!」

「きっと楽しいはずじゃき。どうぜよ?」

俺はこいつが答えをわかっている上で聞いていることに気づいていた。例え俺が意に反することを言ったとしても、辰馬は嘘を瞬時に見抜くだろう。

「寝言は寝てる時に言えよ。まぁ、お前なら起きてても言えそうだけど」

「おまんの口から聞きたかっただけやち」

「俺はただの、見送り人」

はっきりとそう告げれば、辰馬はかぶっていた笠の向きを調節し、笑った。

「そうか・・・おまんが居りゃ、面白か漁になると思っちょったんじゃがのう」

「悪いな、こうみえてもこの星が好きでね。・・・宇宙でもどこでも行って暴れてこいよ。お前には、ちんまい漁は似合わねぇ。でけぇ網、宇宙にぶん投げて星でもなんでも釣り上げりゃあいい」

「おんしは・・・・これからどうするがか?」

「俺か?そうさなぁ・・・俺はのんびりここで釣り糸垂らすさ。地べた落っこちた流れ星でも釣り上げて、もっぺん空にリリースよ」


今その意味がわからなくても、この先わからないまま人生を全うしても、どちらでも構わない。

俺はずっとこの国に居る。

言いたかったのはそれだけだから。


辰馬は何も言わなかったが、その柔らかな表情を見れば言葉など必要なかった。


・・・ふと、奴の腰に、あるものを見つける。それは辰馬の場合、そこにあるべきではないものだった。

「お前それ・・・刀、持ってくのか?」

「ん?・・・あぁ、悩んだ末に決めたぜよ」


一度投げ捨てた侍の魂ともいえる刀を、再び腰に添えられる図太い神経の持ち主はこの国で、こいつだけだろうと思う。

「使わねんじゃなかったのかよ」

「あぁ。使わん・・・ただのお守りじゃ」

「でっけぇお守りだな。何の御利益があるんだか」

辰馬が腰ひもから鞘ごと刀を取り出すのを俺は眺めた。こいつが刀を振ることはもうないのかなと、一瞬感傷に浸った。

「皆の生き様を、ワシの魂の抜け殻に入れて持ち歩きたいだけじゃ」

辰馬は幾多の戦場を共にしてきた、傷のある愛刀を惜しむように撫でた。

「御利益どころか祟られちまいそうだぜ」

「あはははは!!何を言いゆう!縁起でもないぜよ!」

「刀から抜けたてめぇの魂はどこ行ったんだよ?」

笑いながら鞘ごと取り出した刀を腰に戻せば、辰馬は笠で顔を隠した。

「・・・ワシの魂は、ワシの中で2つに分けたき」

「魂を分けるとか聞いたことねぇよ。お前どんだけ自由なわけ?」

「1つはワシが持っていく。もう1つは・・・しばらく、おんしに預ける」

「!・・・」

「待っちょれ。必ず・・・どうにかするきに」

「・・・・・馬鹿。かっこつけんな・・・」



辰馬の馬鹿にのせられて、今はバラバラの足取りが、いつか揃う日がくれば・・・なんて思った。



「ほいたら、またどこかで会うぜよ!」

「俺は遠慮するわ」

「あはははは!!冷たいのぅ金時!!ヅラによろしく伝えちょってくれ!」

「お前が名前間違えないまでに成長したらな!馬鹿本!」

「金時はおっちょこちょいじゃー!ワシは坂本じゃき!」

「あーもう煩ぇ!早く行け早く!」

時折振り返り、大きく手を振る辰馬に俺は永遠と、早く行くよう言い続けた。

姿が見えなくなるまで手を振ると、二度と会えなくなるという迷信を気にして、俺自身手を振るのを途中で止めたことは、墓場まで持っていくつもりだ。







「そうか、坂本は行ったか」

「あぁ。握り飯よろこんでたぞ」

「あぁ」

「・・・・・」

「・・・・・」

隊士たちもほぼ全員いなくなった今、もうここに長居をする意味もないだろうと思い、ヅラに俺もそろそろ行くと告げた。

「・・・銀時、お前は・・・・・」

「なに?」

「もう一度、俺と共に戦う気はないか」

「・・・・・ヅラ、お前「即決はしてほしくない。明日の朝、返事を聞かせてくれ」」

お前の荷物はそこにまとめてある。

早口でそれだけ言うと、ヅラは部屋を出て行った。


だけど、俺がどんな返事をするかヅラもわかっていただろう。

俺は荷物を持って翌日の朝早くに神社を後にした。後ろめたい気持ちがなかったと言えば嘘になる。


でも、俺はもう決めていた。







肌を刺すような寒さ

鼻が感じた冬間近の風の匂い

草履で踏んだ落ち葉の感覚

かじかんだ指先



早く、早く、早く・・・

どこでもいい

とにかく、遠くへ・・・・・




何日も何日も一心不乱に走り続け


たどり着いた先は



あの墓場だった・・・



next...





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