仲間の背中を押せば押すほど

仲間の背中が離れていく









〜過去・弐〜








「何をしちゅうと聞いちょろうが」

「辰馬・・・」

飛んできた刀を避けるべく、身体ごと後ろに退けば、高杉と俺との間に距離が生まれた。

その中間で、刀が斜めのまま地面に刺さっている。

「今日の戦の反省会は、実戦でやるがか?」

「辰馬、今取り込み中だ。退いてろ」

「おまんが苛立つのも仕方ないき。高杉にそげんこと言われたら怒るに決まっちゅう」

「!・・・盗み聞きか?良い趣味持ってんのな」

「おんしらの過去に何があったかは知らん。けんど、大切な人を思う気持ちを貶された時、どんな気持ちになるかぐらいわかる」

草履と地面がこすれる音が俺たちに近づいていた。

「いくらなんでも・・・今回はおまんが悪いぜよ。高杉」

「てめェが知ったような口を利くな。お邪魔虫はとっとと消えろ」

「仲間同士の争いを邪魔せん仲間はおらん」

「仲間だなんだほざく割に、刀投げてるようじゃ説得力ねェよ。お前、・・・意味わかって投げたのか?」

「元からそのつもりぜよ」

「フン・・・馬鹿も限度が過ぎると考え物だぜ」

「普通の馬鹿にはなりとぉ無いき」

辰馬が地面に刺さった刀まで歩み寄ると、鞘に刀を収めることなくそのままそれを見つめた。

「もうワシに・・・刀は必要ないぜよ」

「!・・・それは・・・どういう意味だ?」

「ヅラにもわかるろう。そのままの意味じゃ」

「わざわざそれを言いに来たのか?てめェの好きにすれば良いのによォ」

「ワシは律儀じゃき。何も言わずにどこかへ行くような、そげん勝手なことは、せん」

「それは認めてやらァ。仲間の最期を看取りに来るぐらいだからなァ」

高杉は俺に刀を向けながら、手首だけを動かし上下に軽く振った。その挑発的な動作と発言が、ヅラと辰馬の顔を曇らせる。

「おまん・・・正気かえ?」

「至ってなァ」

「・・・どうやらそのようじゃ」

俺との一騎打ちを邪魔された腹いせか、攘夷戦争離脱という決断に対する恨みの両方からか。

すでに高杉の視界に俺は入っておらず、不敵な笑みは辰馬に向けられていた。


「ほいたらワシも・・・本気にならんといかんのぉ・・・」

「・・・坂本、それは・・・!!まさかッ」

辰馬の懐から出てきた、見覚えのある、鉄の塊。形は鉄砲に似ているが、その大きさは辰馬の片手で握れる程度。

博識のあるヅラと、膨大な情報を知り尽くした高杉が目を見開いている。2人よりも知識が劣る俺でさえ、ソレが何かわかってしまった。

「・・・こいつの初陣の相手が、おまんになるとは思わんかったき」


辰馬が右手に持ったソレは




『拳銃』




この時代、ましてや戦場では
天人しか持っていないはずの代物


「て・・・めェ・・・!!!」

「辰馬ッ、それ・・・どこで・・・?!」

今にも掴み掛りそうな高杉を差し置いて、俺は辰馬に詰め寄った。

辰馬の夢を俺らがとやかく言うことじゃない、と言いながら、「落ちていたものを拾っただけぜよ」と言ってくれるのを願う自分が居た。

離脱を打ち明けられたとき、貿易をするつもりだと聞いてはいたが、もし今持っている銃が天人との貿易で手に入れたものだとしたら、いくらなんでも展開が早すぎる。

矛盾していることぐらい、百も承知だった。

「天人との、正式な取引じゃ」

「!!」

「・・・この、たった1丁の銃を取引した時に再確認したぜよ。人を動かすのは武力でも思想でものぅて、利益じゃ」

「・・・辰馬、けど」

「これから始まるワシ1人の戦に、刀は必要ないき」

「・・・ッ」



辰馬は武力(刀)で戦うことをやめ

自らのやり方で闘うことを決めた



誰よりも早く、

何よりも大きな夢を


己の力で叶えるために・・・




「そんな薄汚ねェ銃と、ふざけた理由で離脱するってのか?」

「ワシが天人と初めて商いしたこの銃は、なんちゃあ薄汚くない。そげんこと言うんは、止めとうせ」

「刀投げるなんざどうかしてる。てめェの魂手放すのと同じ事だ」

「そんぐらいの覚悟持っちゅうことは伝わったかえ?」

白黒はっきりつける高杉と、喧嘩両成敗または喧嘩反対を掲げる辰馬が、真っ向から対立しないわけがなかった。

銃を愛でるように見ていた目つきとは一変し、いつになく強い口調の辰馬が、怒りを露わにしている。

「フッ・・・なら斬られる覚悟もあるみてェだな」

「ほいたら斬られる前に、おまんを打ち抜く覚悟も必要らしいぜよ」

「貴様ら気は確かか?!こんなことっ・・・」

「ヅラ」

「!・・・銀時」

「止めるなんざ野暮だろーが」

「なぜだ?!」

「こうなることぐらい辰馬の話を聞いたときに想像できたはずだ」

「想像と現実は違うっ」

「受け入れるしか、前に進む方法はねぇ・・・」

「・・・」

「変わるのは俺たちだけじゃない。この国も・・・もう変わるんだよ」

「・・・・・っ」



高杉が辰馬に刀を、辰馬が高杉に銃口を向けた。






変わっていく、国

変わっていく、俺たち


受け入れなければならない・・・


ヅラに大口をたたいておきながら

俺の心はソレを拒絶していた


できることなら
4人で笑った日々へ戻りたい

できることなら、仲間同士で
刀なんて交えたくない

できることなら

高杉と坂本の血なんて・・・








ドゥンッ








見たく、ない








「・・・・・さ、かも・・・と・・・?」

拳銃の発砲音に思わず目を瞑った。
ヅラの震える声が聞こえ、
ゆっくりと・・・目を開ける。

俺の目に映ったのは

最悪の現実以外の何物でもなかった・・・


「坂本!!!」


辰馬の身体を突き抜けた刀
身体を支えきれずに崩れ落ちる両足
駆け寄るヅラ


立ち尽くす

血まみれの刀を手に持った返り血を浴びた高杉

「坂本!!!しっかりしろ!!なんでっ・・・高杉!!!貴様っ・・・!?」

急いで辰馬の止血を試みるヅラが高杉を見上げれば、今まで1度たりとも見たことが無い顔面蒼白の高杉が微動だにせず立っていた。

「てめェ・・・なんで、撃たねェ・・・」

「!」

絞り出すように高杉の口からつぶやかれた言葉は、金縛り状態にあっていた俺の身体を解放した。

「・・・お前の本気は、こんなモンかよ・・・?坂本ッ」

「・・・あ・・・ははッ・・・」

「坂本っ?!しっかりしろ!!」

聞いたことのない弱弱しい声で笑う、辰馬。傷を負った身体を支えるヅラの手が、震えているように見えた。

「ワシ、が仲間に・・・出せる本気は・・・これが限界ぜよ・・・」

「!!」

雨の匂いを引き連れた風が俺たちの髪を揺らした。

微かに血の匂いも巻き込んで、遠くに消えていく。


「・・・もうてめェに用はねェ」

「・・・」

「目障りだ」

「・・・わかったぜよ」

「おいッ」

「銀時、ええちや」

「なっ・・・っ・・・」

駆け出した俺を辰馬が止めなかったら、俺も高杉も赤く染まっていたかもしれない。

辰馬に言葉を吐き捨てた高杉は刀の血を払い、鞘に納めた。

「おい!待て!高杉っ」

名を呼ぶヅラの声に振り返らず

高杉は血まみれのまま俺たちの前から姿を消した。




ポツリ・・・、と

誰かの代わりに

空が 泣き出だした






「・・・坂本、立てるか?」

「おぉ・・・心配いらん。ちっくと滅多に刺さらん物が、ぶっ刺さっただけじゃき」

「・・・そうか、」

座り込んだ辰馬の肩を支えるヅラが、相変わらずな辰馬に苦笑いを浮かべていた。

「ひでぇ様だな辰馬」

「銀時、よさないか」

「俺と高杉の一騎打ちに割り込んでおいて、それはないわ」

「・・・・はは、」

「空包で刀とやりあうなんざ、馬鹿しかやらねぇよ・・・」

俺の発言に、ヅラは言葉を失うほど驚いていた。あの状況で辰馬が撃った銃が実弾か空包かなど、区別するまでもなかったからだろう。

どうしてこうも、辰馬が考えることは俺たちの考えることと違うのだろう。

武力で争うのではなく、相手の気持ちを汲んで行動できるのだろう。

「あははっ・・・まっこと光栄じゃ」

「だから褒めてねぇよ。馬鹿しかやらねぇって言ってんの。お前、前向きすぎるから」

力無く笑う馬鹿に、俺は怒りもせず笑いもせず、ただただ呆れていた。

「ワシは誰に何を言われようと、空包じゃろうと胸刺されようと・・・今自分がしたことに、なんちゃあ後悔しちょらん」

「・・・何もしなかった俺たちには、後悔しか残らぬ」

「ヅラ・・・、・・・こげん所で仲間に死なれたら・・・ワシが宙にいく意味がのぅなってしまう。ましてや仲間同士で争って死なれでもしたら・・・」

降り続く雨が顔に落ちてくることも気にせず、辰馬は地面に座ったまま空を見上げた。

「ワシが宙に行くんは・・・現状を変えるために、高い視点を求めるからだけじゃないき」

「・・・・・」

「ワシのやり方でこの星に残る、おまんらを守りたいからじゃ」


良し悪し関係なく、思ったことを口にする馬鹿。嘘もつかず、真っ直ぐに生きる馬鹿。

そんな馬鹿は、いざと言うときどうしようもなく頼れる人物に変わる。

こいつが居たから戦場でも笑えた。

こいつが居たから俺も前を向くことができた。


こいつなら・・・いつか、きっと・・・

人も、国も、今日のいざこざも

全てを覆してくれるかもしれない


そう思った。



「・・・守られるだけはごめんだぜ」

「俺も同感だぞ」

「そげん固いこと言わんでもええろぅ!あはははっ・・・ぅぐッ・・・」

高らかに笑えば、傷口を痛めて背を丸くした。「7刀ぶっ刺さったってのに、よく笑えるぜ」と言いながら俺もしゃがみ込めば、辰馬は結構な汗をかいていた。

そこで初めて、かなりの痛みに堪えていたのだと気づいた。

「ヅラ、そっち持て。手当しに行くぞ」

「あぁ」

「ま、待ちや・・・だから・・・銀時、ヅラ」

「「・・・・・」」

「はぁっ・・・っ、頼むぜよ・・・、生きとうせ・・・っ」






言われなくても、死ぬつもりは毛頭ないと悪態をつけば、辰馬は力なく笑った。




next...





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