『先生・・・いってらっしゃい』

『いってきます』



俺が先生と

最期に交わした言葉















「こ、れ・・・」

テレビから発せられた青白い光が教本を照らしている。最後の1枚には、いつ書かれたのか全く覚えが無い先生の文字。


「なんで・・・いつ・・・、」


高まる胸と、真っ白になる頭。それのせいで文字が上手く読めず、抑えきれない感情が声にならない声であふれ出てきた。

「!」


『銀時』


文頭には確かに、間違えようのない俺の名前が達筆に書いてあった。






〜第一章・肆〜









「どうした、こんな時間に」

「・・・ちょっと・・・」

深夜に俺はヅラのもとを訪ねた。ヅラの部下であろう奴に部屋まで通されると、あの白いバケモノが襖を開けて待っていた。2人で深夜番組の『厨房ですよね!』を見ようとくつろいでいたと、ヅラからどうでもいい情報を聞かされながら向かいに座る。

「・・・エリザベス、しばらく席を外してくれ」

『わかりました』

相変わらずプラカード越しのじれったい会話(?)の後、白いやつは部屋を出て行った。直後、ヅラが「これはめったに出さない客用んまい棒だ」と言って俺に差し出してくる。

「悪い夢でもみたか」

「ガキじゃねーよ」

「・・・なにがあった」

「・・・」

「ここまで来ておいて今更黙ることもないだろう」

「・・・それもそうだな」

俺は着物の合わせ目から教本を取り出そうと、手をいれた。だが、そんな俺の前にすばやく表れた紙と筆。状況がつかめず、俺はゆっくり頭を持ち上げチラリとヅラの顔を見た。

「うむ。・・・まずはここに名前を書け。歓迎会の日程は後日連絡させてもらうぞ」

「は?・・・なにこの紙」

よくよく見るとその紙にはデカデカと『攘夷志士入隊届け(契約書)』と書かれていた。

「・・・・・・」

「どうした。書き方がわからぬのか?」

「書き方どころかお前の考えてることがわからねぇんだけど」

「なぜだ?」

「こっちが聞きたいわ!!誰もこんなの入るために来たわけじゃねぇよ!!」

「なんだと!?じゃあ何のために来たのだ貴様!!紛らわしいぞ!!」

「てめぇが勝手に勘違いしたんだろうが!!!」

勝手に間違えておきながら勝手にイライラしだし、ヅラは『客用んまい棒』をモサモサと食べ始めた。綺麗好きなこいつには珍しく、粉をボロボロと零している。

「じゃあ何のために来たのだお前は。『厨房ですよね!』を見ずしてお前のために時間を割いていると言うのに。早くしろ」

「ほんとお前人の所為にしすぎだからね。俺悪くないからね。無駄な時間過ごしたのはお前が原因だからね!!」

「・・・お前がそんな目をして部屋に入ってきたからだ。勘違いしたことぐらい大目にみろ」

昔を思い起こさせるような目をしていただろう、とヅラが付け足した。
んまい棒の袋をまるめ、少し離れたゴミ箱に捨てながら俺にも食べるよう言ってきたが、そんな気分になれなかった。

「で、一体なにがあった」

「・・・」

真剣な眼差しを向けてきたヅラに、俺は無言で教本を取り出した。

「・・・!、それは・・・」

「あぁ。・・・松陽先生に貰った教本だ」

俺の口から、数年ぶりに聞かされた恩師の名にヅラの瞳の奥が揺れた。

俺が何を話に来たか、ヅラに見当がついたかは知らないが、松陽先生絡みの一件ともなれば、俺が昔の目をしていたことにも頷けると思ったかもしれない。

「あんまり驚かねぇのな」

教本を渡した時のヅラの様子が、至って落ち着いていたのに疑問を抱いた。

「今日の午前中に・・・新八君とリーダーに会ったのだ」

「あいつらに?」

「ひどく落ち込んでいたのでな、理由を尋ねてみるとお前の大事な物を汚してしまったと言っていた」

きっとお妙からアイスを貰いに行ったときだろう。新八はヅラに会ったなどと言っていなかったが、今朝のこともあり、俺に話すどころじゃなかったのかもしれない。

「お前が持ってる大事なものなど、たかがしれている」

「・・・」

「ラーメンを零して汚れても、捨てられなかったようだな」

「違ぇよ。捨てたけど・・・拾ってきたんだよ、あいつらが」

「なら、子供らに感謝しておけ。それはまだ・・・俺たちに必要なものだ」

ヅラがちゃぶ台の端に置かれていた急須と湯呑みに手を伸ばし、自分の分と俺の分のお茶を注いだ。ヅラから受け取った湯呑みの中には、茶柱が立っていた。

「それで・・・これなんだけど、最後のページ見てみろ」

「最後のページ?」

俺は教本を向かいに座るヅラに渡した。

「!・・・これは、・・・」





『銀時。もう、お前の傍に居ることは出来ませんが・・・どうか、1人だと思わぬように・・・』






達筆な文字は、ヅラにも見覚えがあったのだろう。口元をきゅっとしめて、なにかに耐えていた。

「これは・・・松陽先生の・・・っ」

「書かれてる日付が・・・先生を見送った前日のものだ」

「・・・」

「先生は、わかってたのかもしれない」


これから自分の身に降りかかる
最期というやつを・・・



俺は湯呑みの茶から視線をそらさず、無表情で言葉を繋いだ。

「今まで・・・先生は幕府と天人に騙されて、連れて行かれたものだとばかり・・・」

「俺も、だ」

「あいつも・・・高杉も、そうじゃないのか?」

「あいつは・・・この事実を知ったところで、何も変わらねぇ気がする」

「・・・・っ」

「だが・・・これを見せれば、何かしら変わるかもしれねぇよ」

「、どれだ・・・?」





『私のすべての塾生にこれを捧げる。松下村塾、裏の山、松の根』





俺宛ての言葉の下に、小さくかすれて消えかかっている文字をヅラに教えた。俺らは顔を見合わせ、何かを胸の中で決意した。

「行くぞ。ヅラ」

「ヅラじゃない。桂だ」



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