幸せとは何かを
教えてくれた師がいた
同時に
悲しみとは何かを
師の命をもって知った
その後
戦いに明け暮れ、互いに信頼を築き、共に勝利を誓い合った…。
月日は流れ、大人になった俺たちは
戦から身を引いた。
交わらず、振り返らず、次々と離散していく。
頑なに退くことを拒み続けた
友を1人、戦場に残して・・・
暁〜第一章・壱〜
「朝から何の騒ぎだっつーの。銀さん頭痛ぇんだよ、二日酔いなんだよ。頼むから静かにしてくれよぱっつぁん」
「昨日飲みに行った銀さんが悪いんですよ。それに、今日大規模な掃除しますって前々から伝えてたじゃないですか」
「え゙ー・・・?俺が二日酔いじゃない日に変更しねぇ?」
「しねぇよ。つーかそんな日ねぇだろ。だいたいお酒は飲んでも呑まれるなって言うのに銀さんは・・・」
頭はガンガンと痛み、ガミガミと新八の説教が降り注ぐ寝室。
銀時は朝から散々だと嘆いていた。
布団から起き上がり、二日酔いの所為で力無くソファーに座った銀時に水が渡される。
それを飲み干し、改めて新八を見ると掃除グッズフル装備だったので、今日の掃除は免れないだろうと悟った。
「朝ご飯どうします?神楽ちゃんはもう食べちゃいましたよ」
「あ゙ー・・・良いや。あんまり腹減ってねぇし」
「じゃあ適当に掃除始めてますんで、銀さんも顔洗って水飲んで着替えて下さい」
「へいへい・・・」
いまだ痛む頭を抱え、返事だけはするも、行動に移そうとしない。
しかし、ゴミ出しから戻ってきた神楽に新八と同じことを言われ、文句を垂れながら活動を始めるのだった・・・
◆
「神楽ちゃん神楽ちゃん、お前が食ってるそれは何ですかコノヤロー」
「『激ウマッ!!夢の名店コラボラーメン企画第1弾・背油こってりトンコツ味!!』アル」
「大正解〜・・・っておいィィ!!!それ俺が買ったカップラーメンだろが!!」
「だって名前書いてなかったヨ。代わりに私の名前が書いてあったネ」
「嘘つけェェ!!お前が俺の名前の上に自分の名前書いただけだろ!!隠しきれてねんだよ!!」
「隠す気なんてないアル!!私はいつだって正々堂々戦うネ!!」
「人のラーメン食っといて何と戦う気だてめぇは!!!開き直んな!!」
台所の戸棚の奥に隠しておいたはずのカップラーメンが、次々と神楽の腹の中におさまっていく。
銀時がトイレに行っていた数分の間に湯を沸かし、注ぎ、麺が食べれる柔らかさになっていたとは驚きだ。夜兎の食に対する執念は未知数ではないだろうか。
為す術のない銀時が出した仕返し方法は、子供の思いつきのようなものだった。
「お前1週間酢コンブ買う・食べる・欲しがるの禁止な」
「なんでヨ!?嫌アル!!」
「知るか!!お前が俺のラーメン食ったからだろ!!」
「そうやって権力で何もかも解決しようとする気アルか?!職権乱用ネ!!」
「どこがだよッ!?!」
「新八ー!!銀ちゃんが酢コンブ禁止って言うセクハラするアル!!」
「何とんでもねぇ嘘ついてんだコラ。どこの国に酢コンブ禁止がセクハラと同罪なんてのがあんだよ」
「2人とも変な言い合いしてないで早く掃除してよ」
はたきを手に持ち、銀時の寝室から顔を出す新八。先程朝ごはんを食べたはずの神楽が、現在進行形でラーメンを食べていることには敢えて触れない。
「銀さん、押し入れから色々出てきたんで要るものと要らないものと、分けてもらって良いですか?」
「押し入れぇ?別にそこは掃除しなくていいだろ。押しこんで入れる所なんだから」
「いや、押し入れって『押しこんで入れる所』って意味じゃないと思いますけど」
「ったく・・・どれ?」
髪をガシガシとかき乱すと、面倒臭そうに自室に向かい、押し入れの掃除に取りかかった。
1人リビングに残され、酢コンブ禁止令を出された神楽は、寝室から聞こえる2人の話し声を聞きながら苛立っていた。
「天パめ。最低アル。良いもん、今の内に銀ちゃんのヘソクリ探して勝手に買うもんネ」
ズズッっとラーメンをすすりながら、ソファーから銀時の机へと移動する。片手でカップを持ちながら、引き出しを次々と開けていった。
「レシート、依頼主からの名刺、インクの出ないペン、一昨年の卓上カレンダー・・・ろくな物入ってないアル」
ヘソクリのヘの字も見つからないまま、最後の引き出しをガサガサとあさっていると、妙な物を見つけた。
「・・・?何アル、これ・・・」
まるで誰にも見つからないように、隠すようにしまわれていた箱。今まで見てきた、ろくでもない物に比べて、これが異質な物だということは一目瞭然だった。
「へそくり発見アル。神楽ちゃんに不可能はないネ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、カップラーメンを机の上に置き、その隣に箱を取り出して置いた。
「・・・?、へそくりじゃない・・・?」
期待に胸を膨らませて箱を開けたが、中には深緑色の本のようなものが入っていただけだった。
パラパラとページをめくるが、中には何も書かれていない。
多少気になったのは、表紙や何も書かれていないページに、ところどころ丸い染みのようなものがあったぐらいだ。
「・・・銀ちゃんの大事な物なのかな?」
糖分以外無頓着な銀時が、わざわざ箱にしまって保管する本。
見てはいけない物を見つけてしまった気になり、神楽を罪悪感が襲う。
銀時に気づかれる前に、早く元の場所に戻さなければ。そう思い、急いで本を箱の中に入れて、しまおうとした。
ところが・・・
「神楽、お前に良いモンやる!」
「!!」
バシャッ
これが、すべての始まりだった。
next...