「自分から動かねェ限り
この世界は何一つ変わらねェ・・・」
by高杉
優しい嘘
♪〜・・・
♪・・・♪〜・・・・・・
「・・・・・・」
とある廃寺
響き渡る音色は、聴く者を心地よい世界へと誘う
此処にいる攘夷戦争の中枢を担う者全員、高杉の奏でる音色に聴き惚れていた。
「また腕を上げたのぅ高杉」
「たりめェだ。誰が弾いてると思ってやがる」
三味線はもちろん、高杉は歌も上手かった。この2つに関して、戦場で彼の右に出る者はいない。
「・・・けんど、」
悲しい音色に聴こえるき・・・
「・・・・・・」
同室の隅にある机で本を読んでいた桂も、壁に寄りかかり、戦で受けた傷を手当てしていた銀時も、坂本の一言に手を止める。
「坂本、お前の耳も感性も・・・いい感じに肥えてきたな」
「なッ・・・!!!」
高杉に初めて褒められた坂本は、どうやら感動のあまり声が出なくなってしまったらしい。
やっと気持ちが整理されると、酔っ払いのように銀時に絡み始めた。
「こんっっなにちっさい時から一緒に居ったけんど!!これほど嬉しい事はないぜよ!!」
「あ゛?小さいだ?」
坂本が座っている畳から彼の頭の高さまで、これぐらいと、手で背丈を示した。
「ちょッ坂本重い!!のし掛かんな!!傷開く!!」
「俺がお前と会ったのはガキの頃じゃねェだろ。小さくねェ」
もじゃもじゃ頭を睨み付け、仕切りに小さくないと言い続けるが、暴走した坂本には届いていない。
「初めて会った日は、警戒されて仲良くなれんかったきッ!!寂しかったのぉ!!」
「そう言えば、あの頃…高杉が坂本と話しているのは作戦会議の時だけだったな」
あの頃・・・、すなわち坂本が仲間になった頃。
思い出したように桂が口を開き、輪の中に加わった。
「そうじゃそうじゃ!!挨拶しても素っ気なくて、ワシも傷付いたき」
「そういやぁ・・・そうだったな」
あの頃の話を、銀時も思い出したようだ。
「フン、お前らが警戒しねェから俺がしてただけの話だろ」
「えらい大きくなりゆう高杉!!あっはははは!!!」
「だァッ!!おいコラッ、重ぇつってんだろ!!これじゃあタチの悪ぃ酔っ払いじゃねぇか!!・・・痛ッ!?ちょッ、傷口開いたァァ!!!」
「大きさ関係ねェだろバカ」
銀時の傷口が開こうが血が出ようが、大声で笑い、再び三味線を弾き始める。
坂本と高杉は完璧に自分のことしか考えていなかった。
そんな無慈悲な2人に銀時が一言つぶやく。
「てめぇら・・・覚えてろよ・・・・・・」
「何にも聞こえねェや」
「んだと高杉ィィィ!!!」
高杉の方が1枚上手だったようだ。
◆
「坂本俺はもう寝るぜ?」
「じゃあ、ワシも寝るぜよ」
銀時と桂は、先に部屋を出ており、2人も寝るために自室へ戻ることにした。
高杉と坂本が廊下を並んで歩くのは珍しい。
高杉が違和感があるなと言うと、また1つ仲良くなれたと坂本が笑った。
「仲良くなるもクソもねェだろ」
「戦場で友を見つけても良いろー?」
「友、ねェ・・・」
「なんじゃ?」
「いや・・・・・・お前らしいな。アホな想像力」
「おまん失礼じゃのー」
他愛ない話をして、深夜にも関わらず大声で笑う坂本に、高杉の顔にも自然と笑顔が見られた。
「あ、ワシの部屋ここじゃ」
最初に着いたのは坂本の部屋。高杉の部屋はもう少し廊下を進んだ先にある。
「じゃあな」
振り返り、三味線を持っていない手を軽く挙げて挨拶をした。
「・・・高杉」
「あ?」
再び歩き出すと、背後から坂本に呼び止められる。
軽く体を向け、何かと要件を尋ねた。
「・・・嘘じゃ」
「?・・・何が」
「『悲しい音色に聴こえる』いうた事・・・」
「・・・・・・」
坂本が自分に何か・・・それも、言いずらい事を伝えようとしているのがわかった。
真面目に聞き入れようと耳を傾ける。
「本当は、のぅ……」
「・・・」
「三味線を弾くおまんの顔が・・・悲しそうじゃった」
「・・・・・・」
「ちっくと気になったぜよ・・・」
「・・・・・・」
思い切って言ったのは良いが、高杉が何も言ってこないことに焦った。
「・・・・・・」
「その、別に、おまんから理由なんて聞く気は「弔いだ」!・・・」
坂本の本心を、終始表情を変えることなく聞いた高杉は、理由を述べ始めた。
「あの歌は・・・先週旅立った奴らに捧げた」
「・・・」
「これぐらいしか・・・出来ねェからな」
「高杉、・・・」
坂本は、高杉の中にある良心に触れた気がした。
いつも鬼兵隊を率いる総督として、見捨てるとか自己責任などと厳しいことを言う彼の・・・仲間を思う姿。
鬼の仮面を付けた
心の優しい男の姿
「・・・そういうのは1人でやるもんじゃないぜよ」
「・・・」
「今度、ワシも・・・ヅラも金時もみんな呼んでやるき」
「経でも読むつもりか?」
「そんなのはつまらん!!ワシらにはワシらの弔い方があるちや!」
「俺らの・・・?」
自信満々に答える坂本は、鼻息を荒くして
「必要なのは、豪華な飯と旨い酒と仲間の笑い声じゃ!」
『弔い』の概念をぶち壊し、
『新しい弔い』を作り出した。
「忘れちゃならんのが、おまんの三味線ぜよ、高杉」
「・・・・・・」
坂本の視線が高杉の持つ三味線に向けられた。
三味線を軽く持ち上げてみつめ、そこから目線を坂本に移す。
「・・・、悪くねェな」
「!・・・決まりじゃき!」
「ハッ、その案に免じて嘘ついたこと見逃してやらァ。もっとも、てめェの感性はやっと人並みになったってだけの話だがな」
「人並み?高杉も人並みじゃないがか?」
「俺は超人だ」
その日から彼らの、旅立つ仲間に向けた弔いの仕方が変わった。
誰もが笑い、酒を飲み、食事を楽しむ
そんな賑やかな夜となっていた…
end...