「うわッ!?銀時おまえどうした?!」

「?なにが?」

「髪だけじゃなくて・・・腕まで真っ白になってるぞ!?」

「え?・・・って俺白髪じゃねぇし!!」





ん 3







松下村塾にて、本日の授業を終えた。

ほとんどの生徒が帰る中、曇りがちな空を壁に寄りかかりながら見上げていると、同じ塾生の晋助が驚いた声を上げる。

それが自分に向けられているものだと気づき、彼の指差す先を見た。


「・・・ほんとだ・・・・・・」

「おまえ、何したの?」


銀時の腕をまじまじと見つめる晋助。しかし、当の本人も白い腕に覚えはなく、少なからず戸惑っていた。


「乾燥してるな」

「!」


2人で銀時の腕を見つめていると、横から教本を持った小太郎が口を挟む。


「かんそう?」

「うん。きっと今の銀時は干し椎茸みたいになってるんだ」

「干し、椎茸・・・?」

「ぶッ」


干し椎茸の銀時を想像してみる。あまりの異質さに思わず吹き出し、銀時から睨まれる晋助。


「おい、なんでおれが干し椎茸なんだよ」

「からだの中の水が足りて無いから。嫌なら・・・じゃあ煮干しでもいいか?」

「にぼッ・・・!?」

「ははッ!!」


どうだ?と悪気もなく勧めてきた煮干し発言に晋助は声を上げて笑った。


「晋助。なにやら楽しそうですね」

「!、せんせい!」


パッと表情を変えて、晋助がその場を離れ声をかけてきた人物に駆け寄る。煮干しだなんだと騒ぐ晋助に微笑み、頭を撫でてやる松陽。


「銀時、ちょっと来なさい」

「?」


晋助から視線を外した師に、不意に呼ばれた自分の名前。その場で要件を聞くも、うまく交わされてしまい手招きされるがまま、松陽の後を追った。


「〜〜ッ、おれも行く!」

「えっ・・・あ、待って!」


その2人が部屋を出た後、松陽を奪われて少し拗ねた様子の子供と、教本を抱えた真面目な子供が廊下を駆け抜けた。










「え?皮も使うの?」

「そうですよ」

「せんせいすごいです!」

「ふふ、ありがとう」

「(もぐもぐ)」


2人だけで秘密を作るなんてズルい!そう仁王立ちで怒った晋助と、その後ろで慌てふためく小太郎の2人を松陽は笑顔で部屋の中に迎え入れた。

中では、銀時が松陽にみかんを食べるよう言われたらしく、無言でみかんを頬張っている。

何でみかんを食べているのか。から始まり、みかんの実と皮が乾燥肌に効くと言うところまで丁寧に教えてくれた。


「今夜、これをお風呂に浮かべて入りなさい。すぐに治りますよ」


松陽は、すでに干された状態の皮を取り出し、手拭いに包みながら言った。


「さ、小太郎と晋助はもう帰りなさい。お家の方が心配しますよ」

「!、・・・」

「えー・・・」

「晋助、せんせいはお忙しいのだぞ」

「ちぇッ・・・じゃあせんせい、また明日」


不満そうに口をとがらせた晋助に、お土産のみかんを渡す。するとすぐに彼の機嫌は治った。

小太郎にも渡すと、少し顔を赤らめて笑顔を見せる。すかさず晋助がからかうが、特に小太郎は気にしていない様子だった。


「・・・・・・」

「さよーならせんせい!」

「さようなら!銀時もまた明日な!」

「はい、さようなら」

「銀時ぃ!みかん食べすぎるとからだが黄色くなるんだってよー!名前が銀時から黄時にならないようになー!」

「うるせー!誰がなるか!お前が黄色くなれ晋助!」


縁側で草履を履くと、出口へと走りながら、みかんを持っていない手を松陽と銀時に大きく振った。

そんな2人の後ろ姿を見る銀時。



いつも誰かを見送って、自分だけこの場に残る。


ご飯と寝る場所があるならこれ以上望む気はない。」


それだけで充分だ。



充分、なんだ・・・・・・



唯一、気付いていたのは



自分では手に入らない

何処にあるのかもわからない



そんなものを欲している事だけ。



「・・・さて、」

「!」


松陽の声が、銀時を現実に引き戻す。見上げた先に見えたのは、いつもの優しい笑顔。


「今日は、何が食べたいですか?」

「・・・」

「揚げ出し豆腐・・・、あ、裏の畑の大根をお味噌汁に入れて・・」

「・・・」

「・・・あ。銀時に何が食べたいかを聞いておきながら、私の食べたいものを言ってしまいましたね」

早とちりをしてしまいました。

照れ隠しなのか、大きな目で見つめてくる銀時の頭を撫でる。再び同じ質問を銀時に投げかけた。


「何か食べたいもの、ありますか?」

「・・・せんせい?」

「ん?」

「おれ・・・せんせいと食べられるなら、な・・・なんでも・・・」

「・・・・・・」


一瞬驚いた松陽だったが、自分の気持ちを告げてくれた銀時が愛おしく、嬉しくて頬が緩んだ。


「そうですね、私も銀時とならいつも美味しく食べれますよ。家族ですからね」

「か、ぞく・・・?」

「はい。家族ですよ」



どうしても手に入らない

そう思っていたものは、差し出された手を握り、広くて大きい温かな背中に背負われたあの日から


既に、得ているものだった・・・。










「ん・・・?」

まだ夜が明けて間もないとき銀時は目を覚ました。

イチゴ牛乳と書かれた掛け軸、ジャスタウェイの目覚まし時計。見慣れたものしかないそこは、万事屋の自分の寝室。


「・・・・・・」


微かに、まだ香る体。静かに目を閉じて、心の中でつぶやいた。



(ありがとう、先生・・・)









((どういたしまして))

そんな松陽の声が聞こえてきそうな気がした・・・




end...








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