「へぇ、みかんって乾燥肌に良いんですね」

「ババァから貰ったのがあったからちょうど良かったな」

「それでそれで、このみかんの皮どうするネ!?」





ん 2







銀時の向かいのソファーに神楽と新八が座り、今か今かと教わるのを待っている。


「みかんにはビタミンCが含まれてるだろ?まず実を食うことでそれが摂取できる」

「うんうん」

「ビタミンCは鶏の皮とかに含まれてるコラーゲンって成分を助ける役割があるんだってよ」

「あぁ、コラーゲンは美容に良いってテレビでやってますよね!」

「フライドチキンの皮と一緒に食べれば効果倍増アルか!?最高ネ!」

「皮買うなんて誰も言ってねぇぞ」


さっき朝食を食べ終えたにも関わらず、鶏肉という言葉に目を輝かせて反応する神楽。


「んで、食い終わって残ったみかんの皮を日陰で干す。だいたい・・・1週間ぐらいだな」

「結構かかりますね」

「そんなに待ってたら私全身カサカサになるアル!!」

「わぁってるよ!今は文明の利器ってのがあんだろ」

「・・・何使うんですか?」


新八が少し考える素振りを見せ、問いかけると銀時は得意げに答えてみせた。


「電子レンジだよ新八くん」

「電子レンジ?」

「温めて食べるアルか?」

「違ぇよ!お前ほんと食べることばっか考えてんな;」


口にみかんの皮を入れようとした神楽から、それを引ったくる。


「電子レンジで干からびさせて、それを手拭いに入れて風呂に浮かべる」

「お風呂に?入浴剤みたいな感じですか??」

「そ。みかんの皮から出るビタミンCが肌から吸収出来るんだってよ」


銀時が説明を終え、神楽に電子レンジで1分ずつ温め、様子を見て来いとみかんの皮を渡す。勢い良くソファーから降り、神楽は台所の電子レンジへ向かった。


「銀さんよく知ってましたね。みかんの皮が乾燥肌に良いなんて!」

「ん?まぁ・・・昔の人の知恵だな」

「昔はみんな、日陰で1週間みかんの皮を干してたんですかね」

「かもしれねぇな。今は便利になったモンだ」


銀時はどこか、懐かしむようにつぶやく。


「銀さん昔やったことあるんですか?誰かに教わったとか?」


話の流れで、少し気になったことを聞いてみた。


「・・・・・・」


だけど、答えが返ってくるほんの一瞬・・・


「(!ぁ、・・・・・・)」


万事屋で働き始めた頃に見た、遠くをみつめるような目をする銀時が居た。


「・・・・・・」

「・・・教えてやろーか?」

「!・・・はい!」


聞いてはいけないことだったかと少し後悔したが、知りたい思いの方が勝ってしまう。はやる気持ちを抑えて耳を傾けた。






「すっげぇ物知りな人」







「銀ちゃんつるつるヨー!」


夜、ちゃっかり夕食に鶏肉を食べ、例のみかんの皮を湯船に浮かべて風呂に入った神楽が、ソファーに座っていた銀時に言った。

銀時の目の前にこれ見よがしに腕を見せつける。


「わかったから髪拭け!風邪引くぞ!」

「定春見るヨロシ!!」

「あっおまッ!?床濡れんだろーが!」

「定春が舐めるから平気ヨ」


銀時の忠告を無視して定春に駆け寄る神楽。髪からはまだ雫が垂れていて、床を濡らしている。

神楽の言った通り、床の雫は定春が舐めとっていた。


「銀ちゃんもたまには良いこと教えてくれるアル」

「どの口だ!んなこと言うのはッ」


せっかく教えてやったのにと怒る銀時を横目に、せっせと明日のお風呂に浮かべる分と銘打ってみかんを頬張る神楽。


「んなモン食ってねぇで寝ろ。体だけじゃなく肌まで荒れるぞ」

「ハッ!!それは困るネ!!」


数個剥かれていたみかんをリズミカルに口へと運び、歯を磨きに行った。


「落ち着いてジャンプも読めやしねぇ」

「銀ちゃんおやすみッ」

「って早ッ!?もう歯磨いたの?!」


予想外の動きの速さに思わず読んでいたジャンプから目を離す。しかし、銀時が次に見たのは勢いよく閉められた押し入れの襖だった。


「・・・俺も風呂入ろ」


1人、テーブルの上にジャンプを置いて風呂に向かった。









「・・・すっげぇ柑橘系の匂い」

風呂に浸かり、プカプカと浮かぶみかんの皮を包んだ手拭いを手ですくった。チャプン、と湯船の湯が跳ねる。


「・・・」


途端に、さっきよりも濃いみかんの香りが鼻をくすぐった。







湯船からあがった後も、その香りは身に染み着いていた。布団に入る頃には薄らいでいるだろうという考えは甘かったらしい。

懐かしく、優しい香りは布団に横になった銀時の心を安心させ、ゆっくりと瞼を閉ざしていく。






より鮮明になる記憶をゆっくりと辿る。



あの頃感じた

土・風・太陽

賑やかな村塾



そして

会いたいと願ってやまない


柔らかな微笑みを向け自分の名を呼ぶ師の姿・・・








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