みかん
朝、肌寒さを感じて目が覚めた銀時。今日は自分が朝食当番なのでゆっくり寝てはいられないと体を起こす。
朝独特の静けさと、ひんやりした廊下。
「こんな寒かったっけ・・・?」
疑問に思った銀時だったが、蛇口から流れ出る冷たくなった水で顔を洗うと、もう夏は終わったのだと言われている気分になる。
タオルをかごに入れ、頭を掻きながら朝食の準備をしに台所へ向かう。
昨日炊飯器に予約をしていたので、ご飯は炊けていた。さすがに白米のみでは食卓が寂しいので、お味噌汁と焼き魚を作り始める。
「魚ぁ・・・んだよ、アジ無ぇじゃん。朝つったらアジだろーが新八コノヤロー」
冷蔵庫を開けて中を見たが、お目当てのアジが買ってないとぶつくさ文句を言う。しかし、秋の魚・サンマを見つけて銀時の機嫌は急上昇した。
サンマを焼く間に、お味噌汁の具を切っていく。今日の具は豆腐と油揚げとネギだ。
「あ、昨日残したイチゴ牛乳」
ふと手を止め、昨晩半分ほど残したイチゴ牛乳を思い出し、冷蔵庫から取り出すと朝食を作りながら飲み始めた。
「やべ、超得した気分」
あれ?なんか減ってない?コレ・・・
イチゴ牛乳の減り具合を気にしつつ、銀時の朝はこうして始まっていった。
◆
「んー・・・味噌、足すか・・・」
味を調整するなどして、台所で順調に作業をしていると、寝巻き姿の神楽がやってきた。
「銀ちゃーん」
「どうしたー」
焼き魚の火加減を見ながら、起きてきた神楽に応える。
「何か変アル」
「何が?」
「腕とか手が白いネ」
「それ元からだろーが」
「そうだけど、この前からなんか・・・変ヨ・・・・・・」
神楽は夜兎族。肌の色が白いのは当たり前だ。そう思って銀時は聞き流したが、神楽の声のトーンは下がっている。
サンマの火加減が気になったが、とりあえず神楽の『白い手』とやらを看てやることにした。
持っていた菜箸を置いて、神楽に近づく。
「どれ?みせてみろ」
「これ・・・」
おずおずと差し出された手は、相変わらず白かったが、1つだけいつもと違う所があった。
「・・・・・・」
「・・・」
「カサついてんな」
銀時の言うとおり神楽の手は粉っぽく、カサついていた。
「有り得ないヨ!!!美容の大敵は全て打破してきたのに!!!」
「うるせーな。ちょっと体の水分が足りねぇだけだろ」
「そんなことないネ!!毎日イチゴ牛乳飲んでるもん」
「やっぱてめぇかッ!!通りで少しずつ減ってると思ったわ!!」
「銀ちゃんカルシウム摂っておけば万事解決って言ってたアル。だから白いのも治ると思ったヨ」
「糖分好き限定の話だそれは」
適当な理由をつけて正当化した銀時は、再び菜箸を持ちサンマの火加減をみ始める。
「後でババァからクリーム借りてやるから待ってろ」
「ほーい」
クリームを借りてくると銀時が言うと、神楽の声のトーンも戻り、定春の名を呼びながら居間に戻っていった。
「(そういえば・・・、)」
神楽が台所を出て、銀時はお盆に朝食を乗せながらあることを思い出した。
「(・・・・・・)」
先日お登勢からもらった台所の角にある段ボールを開ける。
「あったあった・・・」
その中に入っていた1つ、みかんを取り出す。
「まさか、役立つ日が来るなんてなー・・・」
そう呟いて、もう1つみかんを取るとお盆の上に乗せて神楽の待つ居間に向かった。
◆
「おかわりー」
「その辺にしとけ。夕飯の分が無くなんだろ」
「まだ6杯目ネ?!」
「もう6杯食ったのッ?!」
銀時が作った朝食を食べ終え、お腹があまり膨れておらず不機嫌な神楽に、さっき持ったみかんを渡した。
「あ!みかんー!!」
「この前ババァからもらった段ボールあったろ?」
「うん。あれみかんだったアルか!?」
「おう。腐らねぇよーに早く食わねぇとな。1個腐ると全部腐らせるなんざ、たち悪いぜ」
「心配ないヨ。今日中に食べ終わるネ」
「誰がそこまで早く食えっつったよ!?」
神楽はみかんを剥くと、1個1口で食べてしまう。案の定銀時の分の、みかんも半分奪われてしまった。
「満足アルー」
「人の分まで食っといて満足しねぇとか言ったら、はっ倒すぞ」
「みかんはりんごと違って皮という名のゴミが出るから嫌アル」
銀時を無視し、神楽は自分が食べたみかんの皮を捨てようとするが、なぜか定春を呼ぶ。
「定春ーおやつヨ」
「わんッ」
「はい。食べるヨロシ」
「ちょっと待てェェェ!!!」
神楽がみかんの皮を定春に与えようとした寸での所で防いだ。
「お前今それゴミって言ったよね?ゴミ与えようとしてるよね?!」
「言ってないネ。皮と言う名のごっ…ごみごみした奴って言ったヨ」
「無理やりだなオイ!!」
定春が皮を口にする前に奪い取り、なにやら神楽に説明をし始めた。
「さっき腕がカサついてただろ?それを治すためにこのみかん全部を使うんだよ」
「全部?その皮も使うアルか??」
「そ。今からその方法教えてやっから、とりあえず食器片付けるぞ」
「きゃほォォい!!早く教えるネ!!」
バタバタと食器を台所に運ぶ騒がしい音と共に、万事屋の玄関が開いて新八が出勤してきた。
「おはようございまーす」
「おー」
居間から手を上げて応える銀時。食器を運び終え、台所から飛び出してきた神楽に居間へと引っ張られる新八。
「ちょッ!?転ぶ転ッ・・・?!ぶッッ!!」
「あ・・・転んだアル」
バランスを保とうとする努力もむなしく、冷たい床の上に倒れ込んだ・・・。
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