痛むこころ 3
「高杉、入るぞ」
「あァ」
川で身体にこびり付いた血を洗い流し、3人で部屋を訪れた。最後に部屋へ入る坂本に、周りに人がいないか確認して襖を閉じるよう高杉が言う。
「警戒してるな」
「念には念をってだけだ」
「平気じゃ。誰も来ちょらん」
畳の上に正座をした桂が部屋に散乱した包帯をまとめ、端っこによける。壁に寄り掛かって座る、先ほどよりは幾分落ち着いた様子の高杉だが、その目は戦場に居る時とあまり変わらない。
そんな高杉とは対照的に、自室に隠し持っていたのか、なぜか飴を舐めながら部屋に入り畳の上に横たわる銀時。
笑顔で襖を閉めた坂本も座り、部屋に4人が集結した。
「とりあえず、詳しく事情を話せ。高杉」
桂の言葉を皮切りに、銀時と坂本の視線が高杉に集中する。
「・・・先の見えねぇ戦と、死に逝く仲間の所為で弱気になってる奴らが増えてきた」
「・・・・・・」
「最近になって、耳障りな会話ばかり聞こえて来やがる」
「隊士達、か・・・」
戦争は、『勝利』か『敗北』どちらかしか有り得ない。不安に駆られた隊士達の脳裏には、『敗北』と言う2文字が浮かんでは消える。その繰り返しだった。
「有りもしねェ事言いふらして、周りの不安を煽る奴らが同じ戦に出る資格なんざねェ」
「で、刀向けたってわけか。本気で殺ろうとしたのかよ?」
「・・・・・・」
銀時に返事をすることは無かったが、高杉の握り締めている手のひらに力が入ったのが見え、誰も聞き返そうとはしなかった。
「気持ちはわからなく無い。だが、そのような輩は放っておけば良いだろう」
「放っておけば被害は広がるばかりだ」
「ワシは高杉と同意見じゃ。取り返しがつかなくなってからでは遅いき」
「だが斬る事は無かろう。彼らとて不安なのだ。その気持ちを汲んでやれ。斬る以外に解決策はいくらでもある」
「確かに、斬るのはいかんちや」
「おいモジャ、てめェ俺に同意見つったじゃねェか」
「斬らんと話し合うべきだと、ワシは言っちゅうだけぜよ」
「坂本、それは俺と同意見じゃないのか?」
「ん?そうか。ヅラと同じじゃ!」
最初に同意見だと言った坂本は、結局斬らずに話し合いで解決する桂に賛成した。そんなうっかり者の所為で高杉の機嫌が一気に悪くなる。
怒った高杉は桂が座るときによけた、治療で余った包帯の切れ端を投げつけた。
「高杉、子供のような真似をするな」
「うっせ」
顔を逸らし機嫌が悪い様が手に取るようにわかる高杉を見て、包帯がもじゃもじゃ頭に絡まった男が苦笑していた。
「銀時、ずっと黙っているがお前はどう思ってる?」
何も言葉を発することなく3人のやりとりを傍観していた銀時。桂に言われて寝転がっていた体を起き上がらせる。
「俺は・・・鬼兵隊の隊士と同意見だな」
「なんだと?」
ガリッと、銀時が一噛みで飴を砕いた。
「奴らは思ったこと言っただけだ。人間なんだし、後ろ向きに考えることもあるだろ」
「「・・・・・・;」」
なぜこんな時にそんな言い方を・・・と冷や汗を浮かべる桂と坂本。そして再び火花を散らし始めた高杉と銀時。すぐにでも殴り合いが勃発しそうな2人をなんとかなだめようと必死になる。
「今朝から何だてめェ、全体の士気が低くなってる時によ」
「お、落ち着かないか2人とも!」
「1番取り乱してたお前が言えた事かよ」
「ぎっ銀時、飴!飴でも舐めるぜよ!」
「もういらねぇ」
桂と坂本の努力も虚しく、2人の言い争いは益々悪化していく。口で決着が着かないと判断した高杉が、刀を手にした時だった。
「・・・ってわけだから、俺もう寝るわ」
「は?」
銀時は立ち上がり3人を見下ろすと、「じゃーな」っと言って部屋を出て行ってしまった。
「なッ!?待てよッ!!」
「なんじゃ金時、黙っちょったのは眠かったからか」
「そのようだな」
「てめぇら・・・ほんっとに救いようのねぇ馬鹿だなッ!!」
部屋に残された3人。そこで話された阿呆な会話に高杉が切れた同時刻、銀時は自室の布団に入っていた。
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