「私、マミーの子供で良かったネ」


by神楽














[あれ・・・これ・・・・・・夢、だ]

ごくたまに夢の中で、コレが夢だと気付く事がある。

神楽は今まさに、その状態にあった。

[・・・]

体も自由が利いていて辺りを見回すと、そこはひどく見覚えのある景色だった。

[ここ・・・・・私の星アル・・・]

つい最近まで居た自分の故郷。

相変わらず薄暗くて、足元はコンクリートの所為で吸収されずに出来た水溜まりがいくつもあった。

降り続ける雨によってそれは広がるばかりだ。

記憶を辿るように、昔父親を待ち続けた場所を通り過ぎ、路地裏を抜ける。

[・・・・・・]

その先にあったのは、


自分が生まれ育った家。


そして



置いてきぼりにされた家。



一瞬ためらったが、これは夢。

そう思えると、突然足は軽くなり家の中を覗く事ができた。

[・・・・・・]

目をキョロキョロと動かし、様子をうかがう。自分が居た頃と少し違ったように思えた。

ゆっくりと足を踏み入れ、懐かしさを堪能する。

[・・・あ、写真・・・・・・?!]

棚の上に飾られていた写真を見て驚く。

[い・・・ない・・・・・・私写ってないネ]

写真に写っていたのは、まだ毛がフサフサの父と、その真ん中で笑うなぜか幼い兄。そして、椅子に座り優しい眼差しを向ける母だけだった。

[こんな写真見たことないし・・・なんで?私は・・・?]


ガタッ


[!!]


動揺した神楽に追い討ちをかけるように、背後から物音がした。

瞬時に振り返り傘を構える。

「あら?あなた・・・」

[!!]


1人、若くて綺麗な女性が立っていた。

透き通る声で話し、神楽に近付いてくる。


[ッ・・・・・・マ・・・?!]

「もしかして、神威に用かしら?」

[えッ・・・]

今、あの子買い物に出掛けてて。

女性は困った表情を浮かべ、神楽に家の中で待つように言うと、部屋の中に誘導した。

[(なんで・・・マミー・・・・・・)]


目の前に現れたのは、星になったはずの母親。再会できた嬉しさと、まるで神楽と面識がないような態度をする母親に悲しさを覚えた。そんな入り混じった気持ちのまま、取り敢えず案内された部屋に入る。

「でも驚いたわ。神威にこんな可愛いお友達が居たなんて。しかもかなり年上の」

椅子に座って笑う顔は、昔と同じだった。だけどどこか違う気もする。

[あの・・・・・・家族は、3人・・・]

そうだ。と言われるのが怖くて、曖昧にしか質問できなかった。

だからと言ってこれはなんの仕打ちだ、と心の中で毒づく。

「あぁ、家族は3人よ」

[さ・・・3人?本当アルか?]

「えぇ」

涙ぐみそうな思いを、グっと堪えるしかできなかった。

「今は、ね」

[え?]

ハっとして母親の顔を見る。

すると、自分のお腹に手を当ててゆっくりと撫でた。

「ここに・・・もう1人居るの」

[!]

愛おしむような、優しい声色で神楽に教えてくれた。

[・・・・・・]

よくよく見ればお腹は大きく膨らんでいて、何故写真が3人だったのか、どうして母親が少し違ったように思えたのか、そして家も自分が居た頃と違って見えたのか。

全てが理解できた。

「神威は妹がほしいって言っててね、私も女の子だと良いなと思ってるんだけど……ウチの人が言ってたの。元気に産まれてくれれば、それだけで十分だって」

家族みんなでこの子が産まれてくるのを楽しみにしてるの。

夢だから、自分の都合良く聞こえてるのかもしれない。でも、嬉しい気持ちが隠せなかった。

神楽の顔も、自然と笑顔になる。

[名前とか決めてるの?]

「名前?一応決まってるわ」

[なにアル?!どんな名前ネ!]

座っていた椅子から身を乗り出して迫る。

「名前はね、『神楽』」

[か・・・ぐら・・・・・・]

「根拠はないけど、この子・・・女の子な気がしてね」

お腹に手を添えたまま、神楽を見て笑った。

男の子だったら、その時考えるらしい。

「どう?神楽って名前」

[・・・すごく・・・・・・すっごく気に入ってるネ]

「気に入ってる・・・?」

[!ぁ、・・・私の名前『神楽』って言うヨ]

神楽は自分が、お腹の中にいる子供の成長した姿だと言わなかった。

それは、もしかしたら今の神楽を見てがっかりしてしまうかもしれない。と、夢といえども良からぬ事が頭をよぎったから。

「あなたも神楽って言うのね?そっかぁ・・・なんだか不思議な気分だわ」

[私もネ]

2人顔を見合わせて、笑う。
こんなに穏やかな気持ちで何度も笑ったのは神楽にとって初めてだった。

「神楽ちゃん、どこに住んでるの?ご家族は?」

[えっと・・・、この近くから引っ越すアル。家族は・・・・・・今はバラバラの場所で生きてるヨ]

説明できるはずもなく。悪気のない嘘をついた。

[でも、たまに連絡とったり・・・今は新しい家族みたいなの出来たネ]

「そうなの・・・。じゃあ、幸せなのかしら?」

[うん。幸せネ]

神楽が幸せだと聞いて、母親は安心した様子だった。

「お腹、触ってみる?」

[良いの?]

「もちろんよ。女の子だったら同じ名前になるかもしれないし」

これも何かの縁よ。

手招きをする母親の元へ、駆け寄る。

そっ、とお腹に手を添えるとその手に反応するかのようにお腹の中で動いた。

[わっ・・・うっ動いたアル!!]

「けっこう力強いでしょ?さすがあの人の子だわ。神威もしっかり受け継いでて・・・」

「うん、すごい力・・・・・・]

「耳当ててみると、もっと身近に感じられるの」

母親に促され、お腹に耳を当ててみる。

暖かな温もりが直に伝わり、安心感を得られたと同時に心地よい睡魔が襲ってきた。

[・・・・・・]

「神楽ちゃん・・・?」


そのまま、深い眠りについてしまった。









「神楽。元気そうで本当に良かったわ。ずっと・・・・・・見守ってるからね・・・」






全てに気付いていた母親の言葉は、眠っていて夢の中に居るはずの神楽を笑顔にさせた。











「ん・・・・・・マ、ミー・・・?」

目が覚めて、最初に見えたものはいつもの、押し入れの天井だった。

居間からは新八が銀時に小言を言ってるのが聞こえる。

「・・・不思議な夢だったアル・・・・・・」


最後、よく覚えてないけど・・・

なんか嬉しかったな・・・



暖かな心とは裏腹に、目から流れ出た物を拭った。


この涙が止まったら、勢い良く襖を開けておはようと言いながら

2人に抱きついてやろう。



マミー、新しい家族紹介するネ




神楽の突進に男2人が尻餅をつくまであと、少し・・・・・・



end...








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