痛むこころ
「黙って聞いてりゃてめェ、斬られたいのか?」
「俺は・・・本当のことを言ったまでです!!」
「あ゛ッ?」
隊全体の士気を高め、これから戦場に向かおうと言う時だった。高杉率いる鬼兵隊から聞こえた、雰囲気を壊す鋭い総督の声。
「どうやら、今ここで死にたいらしいなァ・・・」
「総督!!止め「黙れ」ッ」
止めようとした1人の部下さえ、一瞬で黙らせてしまう。鞘から刀を抜いた高杉を、鬼兵隊の誰も止められずにいた。
「たっ?!・・・高杉!!何をしてる!!」
「安心しろヅラァ、何も無かったことにするだけだ」
少し離れた所で、別の隊をまとめていた桂。しかし、異様な雰囲気に包まれていた鬼兵隊に、何事かと思い近づいた。その目に映ったのは、刀を1人の隊士に向けた高杉。
仲間に刀を向けてる彼は、よく銀時や坂本に斬りかかっていたのを目にしていたので珍しくはない。だが、こんなに凄まじい怒りと威圧感をかもし出し、且つ隊士に刃先を向けている高杉を見るのは初めてだった。
「頭を冷やせ!!これから戦なのだぞ!!仲間割れしてる場合か!!」
「だからこそ今ここで粛正すんだろーがよ!!!」
「高杉!!!」
制止の声を止めない桂。しかし、高杉が隊士に向けた刀が鞘に収まることはない。
今にも刀を振ろうとしている。
その時だった。
「おい!もう坂本部隊出てった・・・!?」
桂がまとめていた隊がまだ出発していないのに気づき、他の隊士に聞いてみると何やら、もめ事が起きたと知らされた銀時。現場へ駆けつけると予想外の状況に、戦前でピリピリしていたさすがの彼も慌てた。
「な・・・ッにしてんだよ?!は?!え、ちょっ・・・?!」
「てめェは黙ってろ!!」
「馬鹿!!刀収めろ!!」
ひどく苛立っている高杉を止めるべく駆け寄った銀時。しかし、その所為で今度は怒りの矛先が銀時に向けられた。
高杉は隊士から銀時へと刃先を移す。
「銀時ィ。邪魔するっていうなら、テメェから斬っても良いんだぜ?」
「・・・ッ」
その時の高杉の眼は本気だった。
「斬れよ」
「・・・・・・」
「お前に俺が斬れるならな」
「・・・なんだと?」
「返り討ちにしてやるっつってんだよ」
「おい銀時!!!」
止めてくれると思っていた銀時が、まさか高杉の苛つきを逆撫でするとは思ってもみなくて、桂は大きく声を張り上げた。より緊迫した状況を作り上げた男を焦りつつも怒鳴りつける。
「てめぇが俺に刀向けようがなにしようが構わねぇが、その代わり」
「・・・」
「今日の戦は負けると思え」
「!」
高杉の眼力がより鋭くなる。
「いいか、今ここで斬り合うって事はなぁ、戦で負ける事と同じなんだよ」
誰もが息を呑み、微動だにしなかった。目の前で静かに核心をつく男に言い知れぬ恐怖を感じたのだ。
「・・・・・・」
銀時は高杉から一瞬も目を逸らさない。高杉も同じように銀時を睨み続けた。
「・・・・・・」
「・・・高杉ッ・・・・・・」
「……ーッ」
カチャッ
桂が念押しをするように高杉の名を呼んだ後、刀は鞘へと収められた。高杉は目を合わせることなく、1人背を向けて戦場へと歩き始める。その後ろを、慌てて鬼兵隊隊員が追い掛けた。
総督の逆鱗に触れた原因の男は、先を歩く鬼兵隊総督を睨み付け、最後にこの場所から戦場に向かって行った。
「・・・ヅラ、早く出るぞ」
「あ、あぁ・・・」
桂の心に一抹の不安を残して、男達は血の舞う戦場に繰り出した。
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