て幻を 2




桂が銀時に問いただしてから、2人は会話をする事もなく賑やかな祭りの中を歩いていた。

ふと、大人の男2人だけで祭りに来ているのが珍しかったのか、射的のおっさんが声をかけてきた。

どうやら客が来ないから呼び込みをやっているようだ。

「童心に返ったつもりでさ、やってきなよ兄ちゃん達」

「射的か・・・」

まんざらでもなかった銀時と桂は、おっさんに200円を渡し銃を構えた。



パンッ



「ぁ、ハズした」

「それは真ん中を狙わねば取れぬぞ。こうやるんだ」


パンッ


銀時が外したジャスタウェイのキーホルダーは、桂の打った弾によって後ろに転げ落ちた。

『やるな兄ちゃん』
そう言って射的のおっさんは、ジャスタウェイのキーホルダーを桂に渡した。

「お前こういうの得意だったっけ?」

その様子を次の標的をどれにするか考えながら横目で見る銀時。

「いや、俺は型抜きの方が得意だ」

「だろーな」

桂が言ったことが妙に納得出来て、次の標的に向け発砲準備を整えた。


「・・・アイツが、好きだっただろう。この手の部類は」

「・・・」


パンッ


「チッ、またハズれやがった」

舌打ちしたのは、ただ単に的を獲られなかったからか。

それとも古い同士の話をされたからだろうか。

「それは足元を狙え」

「ん」

再び桂からの指示通りに発砲すると、またまた見事に転げ落ちた。

今度手に入れたのはエリザベスにそっくりな宇宙生物のキーホルダー。

桂はおっさんからそれを受け取り、懐かしむように手の中にあるキーホルダーを見つめた。

「教わったのだ。昔な」

「あ?」

「射的の狙い所」

キーホルダーを袖の中にしまい、今度は『カレー特集』と書いてある料理本を狙いながら言った。

しかもそれを1発で自分のものにしてみせたのだ。

「祭りがあると聞けば、真っ先に行こうとするのは・・・奴だったな」

おっさんから料理本を貰い、表紙を眺めながら目を細めた。

「りんごあめをお前と取り合っていただろう」

「・・・覚えてねぇよ。んな昔の話」

「そうか・・・」

覚えていない・・・そう言った銀時が最後に狙ったのは、けん玉。

しかし、それには弾が当たるどころか掠めることも無かった。







射的屋を出たあと、桂がかき氷が食べたいと言い出した。

ちょうど冷たいものが欲しかった銀時も賛成し、かき氷屋に向かう。

店の人がたっぷりの氷にイチゴとレモンをかけてくれるのを、ぼーっと見て、それを受け取り近くにあった石段に腰掛けた。

「・・・やっぱり美味いな」

「俺的には、もっとイチゴかけてほしかった」

「贅沢だぞ銀時。仕方ない、レモンと混ぜてみるか?」

「仕方ないじゃねぇよ頼んでねーし!イチゴの味を壊すなッ」

かき氷を食べて。桂がどうしてもやりたかったという『舌色付いてる?』質問。

銀時は適当に聞き流していた。







「これ、リーダー達にやると良い」

「あ?」

かき氷も半分ほど減った頃、射的で取った2つのキーホルダーを桂が手渡した。

「・・・こんなモン貰って喜ぶか?」

「俺に聞くな」

「お前が取ったんだろが」

神楽や新八が受け取ってくれるかは別として、とりあえず着物の中にしまった。

「・・・・・」

「・・・・・」

シャリ、とかき氷とスプーンがぶつかる音がする。

会話が無い分、周りの音・光・匂いに敏感になった。

太鼓の音・賑やかな人の声・提灯の明かり。懐かしい記憶を手繰りよせられる匂い。

目の前を走る子供は、まるで昔の自分たちをみているようで苦しい。

『今』という現実は、あの頃信じていたことさえ嘘のように感じさせる。

「この前、歌舞伎町で高杉に会った」

「!」

昔を思い出していたからか、祭りということで警戒していたからか、高杉の名前に過剰に反応してしまった。

「祭り好きなのは相変わらずのようだ」

「・・・居るのか?ここに」

銀時の声が険しくなる。無意識なのか、木刀に手が添えられた。

「いや。ド派手な花火を上げる気は無いらしい」

「・・・」

桂の話を聞いて、銀時の木刀に添えられた手が離れる。

「・・・単なる祭り好きなら構わねぇけどよ」

「アイツの事だ。俺達や幕府の目を盗んで祭りを楽しんでいるだろう」

「違いねぇ」

二人の顔に笑顔が戻った頃、かき氷は溶けて冷たいジュースに変わっていた。









「銀さん!」

「!銀ちゃん遅いヨ!!どこ言ってたアルか!?ヅラとこそこそ何してたネ?!お好み焼き食べてたら承知しないアル!!!」

新八達と待ち合わせした場所に帰ってきた銀時。

怒鳴り散らしてきた神楽はヨーヨーやお面やらソースせんべいなど、どうやったら300円で買えるのか教えてほしい程の量を両手いっぱいに持っていた。

「お好み焼きなんて食ってねぇよ、つーかお前まだ食う気?!」

「こんなのまだまだ序の口アル!!!」

「新八ぃ、俺そんなに金渡したっけ?300円ぐらいじゃなかったけ?」

「神楽ちゃんは屋台泣かせです」

「・・・・・」

どうやら行く店全て値切り、もぎ取り、おまけを要求したらしい。

当の本人はご満悦のようだが・・・。

「桂さんはどうしたんですか??」

「あぁ、ヅラなら帰った。途中で沖田君が射的してる所見て今日は大人しく帰るっつってよ」

「そうだったんですか、じゃあ僕らも帰りましょうか」

「おう。神楽、帰ェるぞ」

「えぇー!!!」

「『えぇ』じゃねぇの。お好み焼きならまた作ってやっから」

「・・・しょーがないアルなぁ」

しぶしぶ承諾した神楽の背中を押して、万事屋3人は家路を急いだ。

その間も、神楽が3つ取ったヨーヨーを新八と銀時にあげたりソースせんべいを3人で分け合う姿があった。











「・・・フゥー」

銀時達がお祭り会場から出て行くのを遠目で見ている男が居た。

派手な着物を纏い、キセルを吹かしながら石段に座っている。

「・・・お兄さん、迷子?」

「あァ・・・?」

男が気づき目を向けると、見知らぬ子供が立っていた。

その子供に隠れるように後ろから2人が自分を見ている。

「・・・・・」

「お兄さん迷子なの?」

「ククッ・・・迷子だァ?そういうのはてめェらみてェのを言うんだよ」

「俺は迷子じゃないよ!」

隠れていた子供の1人が少し大きな声を出して反論した。

男はもう1度、ククッと喉で笑い石段から立ち上がった。

「迷子か、・・・あながち間違いじゃねェなァ」

「やっぱりそうなの??誰とはぐれたの??」

子供の問いかけに、煙を口から吹きながら、妖しく笑みを浮かべた。


「・・・いや、はぐれちゃいめェ。俺は元から1人だ」


男はそのまま祭りの明かりが届かない闇へと消えて行った。





end...





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