せめて幻を
「おじちゃん、たこ焼き1つ!」
「あいよッ」
夏も終わりに近づいてきた今日この頃。
気温や太陽の照りつけ、まだまだかき氷が食べたくなったりもするが、8月の中頃は気分的に秋を感じ始める頃。
万事屋一行は今年最後の夏イベント、『お祭り』に来ていた。
「思ってたより人いねぇな」
「お盆の帰省ラッシュ時期ですからね」
屋台が立ち並んでいるのを少し離れた所から見ていた銀時と新八。
銀時は人が多いから2人で祭りに行ってこいと万事屋でくつろいでいたが、神楽の粘り強い説得(と言う名の暴力)に根負けしてやって来た。
意外にも人が少なかったことに、嬉しがっているようだ。
「銀ちゃん、おじちゃんがたこ焼きオマケしてくれたネ!」
「よくやったぞ神楽ぁ。その調子で焼きそば買ってこい!」
「おうヨ!!」
「あれ・・・なんかたこ焼き屋のおじさんソースまみれに見えるんだけどッ。争った感あるんだけど!?」
「争って得た、そんな強い心を持つたこ焼きこそ、私の胃の中に入るに相応しいアル」
「また無茶苦茶言ってるよこの子・・・」
深いため息を吐く新八を余所に銀時と取り合いながらも、たこ焼きを食べ終えた神楽が焼きそばを買いに走った。
「ちょっと銀さん、大人気ないですよ」
「あいつ10個中7個も食いやがった!!」
「・・・はぁ・・・・・・」
口の周りにソースを付けて拗ねる大きな子供に、再びため息を吐いた。
◆
「焼きそばー・・・あ、あったアル!」
たくさんある屋台の中から目当ての焼きそば屋を見つけた神楽。
少々急ぎ足で屋台に向かった。
ドンッ
「!」
「わッ」
屋台まっしぐらだった神楽は何かにぶつかり、よろけてしまった。
「おぉ、すまぬ事をした」
「あ、ヅラ!」
「む、リーダーではないか」
目の前には『ヅラじゃない』と、お馴染みの台詞を吐き捨てるいつもの長髪の男、桂が立っていた。
「ヅラもお祭りに来てたアルか」
「たまたま通りかかったのでな」
「エリザベスはどこにいるネ?」
「あいつは留守番だ。・・・ところでリーダー、銀時達も一緒か?」
「うん。向こうで私が焼きそば買ってくるの待ってるヨ」
神楽が嬉しそうに語るのを見て桂は笑みを零す。そして焼きそばを(もちろんオマケしてもらった)買い、2人で銀時達の元へと向かった。
◆
「銀さんって、お祭り好きじゃないんですか?」
神楽を待っている間に、夕焼けだった空がいつの間にか真っ暗になっていた。
屋台の明かりが、きれいに輝き並んでいる。
先程よりも少し増えた人を目で追いつつ、新八は最初お祭りに行くのを拒んでいた銀時に理由を尋ねてみた。
「別に好きじゃねぇわけじゃねぇよ。どっちかっつーと好きだし」
「じゃあどうして行きたがらなかったんですか?」
「あー・・・あんま深い意味はねぇな」
「なんだ、面倒くさかっただけですか」
「良いじゃねぇか、銀さんてめぇらに付き合ってやってんだよ?!」
「そうですね」
「何だよその目!その言い方!誰の金でお祭り楽しめてると思ってんだよ!」
「アンタが昨日パチンコでお金使わなければ僕らは今頃焼き肉食べてんだよ!!」
実は、以前から次の給料が入ったら焼き肉を食べようと約束していたのだが、銀時が焼き肉代をパチンコ代に変えてしまったのだ。
焼き肉が食べれないならお祭りに連れていけと言う神楽の粘り強い説得(と言う名の暴力)で今お祭りに来て居る。
銀時は話の流れが悪くなったので、タイミング良く自分の視界に入った焼きそばを持ち、やってくる神楽の名前を呼ぶ。
「!おーい神楽ぁ!こっちだこっち!」
「無理やり話逸らしたよこの人」
再度軽蔑した目で銀時を睨んだ。
「あ?ヅラ・・・?」
「?本当だ、何で桂さんと一緒なんだろ?」
走って近付いてくる神楽とは対照的に、後ろから歩いて来る桂が見えた。
「銀ちゃん!新八!またオマケしてもらったヨ!」
「神楽、いくら『オマケ』でもこの『オマケ』は要らねぇ。元の場所に返してこい」
「オマケじゃない、桂だ」
酷く嫌そうな顔をする銀時に、『さっき会った』と焼きそばを食べ始めた神楽が説明した。
「桂さん、お祭り好きなんですね」
「ん?・・・まぁ、そんなとこだな」
「?」
なんとなく歯切れの悪い返事をした桂を不思議に思った。
「新八ぃ、神楽に綿あめでも買ってやれ」
銀時は突然そう言って、300円を渡した。
「綿あめ?!」
「え?でも、銀さんは?」
綿あめと聞いて喜ぶ神楽と、銀時の意図が理解できない新八。
「ちょっくらヅラと勝負してくらァ」
「そうだな、祭で競うのは随分と久しぶりだ」
「そう、ですか。・・・わかりました。じゃあ終わったら出口に来て下さいね」
「んー」
いつもの銀時らしい返事をして、2人は賑やかなお祭の空間に溶け込んでいった。
「・・・銀時、お前も・・・探してるのか?」
「・・・・・・別に」
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