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「シルバー、明日うちに遊びに来て!」



そう言われたのは昨日の夕方頃
ポケモンセンターで休憩をしていた時にポケギアに連絡が入った
見てみれば名無しの名前が表示されている
ポケギアの番号を教えた記憶はない
多分勝手に名無しが登録したんだと思う

何だかんだ口では嫌だと言ったが、こうして名無しの家に歩みを進めているのは惚れた弱みだろう
今目の前に自分がいたら一発拳をお見舞いしてやりたい気分になった
斜め後ろにいるニューラがどこか嬉しそうにしているのに、また腹立たしさを覚えた





「シルバー遅かったね」

「な、お前なんて格好してるんだっ」

「ぁ、これ?」



さも何事もないように笑い名無しはくるりと回って見せた
特徴的な黒と黄色の耳、上下は黄色で統一されていて後ろにはギザギザの尻尾がついている
どう見てもピカチュウの格好である
一体何事かとシルバーはその場で一時停止してしまった



「可愛いでしょ?」

「ニュー、ニュー!」

「ぁ、ニューラは分かってくれる?」



ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねている相棒にシルバーは思わずため息を付く
それでも目の前でニューラと戯れているその姿を可愛いと思ってしまう自分に更にため息を付いた






「で、何でそんな格好してんだ」

「この前怪獣マニアの人と会ってね、ポケモンコスプレっての教わったの」

「……」

「これが意外と楽しくって色々作ってみたんだけど、やっぱり誰かに見てもらってなんぼかなって」



そういうものなのかとシルバーは少し首を傾げた
目の前で色々と衣装らしきものを広げている名無しを見て、一体何時まで付き合わされることになるのだろうかとまたため息をついた



「これこれ、結構良くできたんだよね」

「何のポケモンだ?」

「着てからのお楽しみ!ちょっと待っててね、」



にっと笑って名前は衣装を抱え部屋の奥へと消えていった
何となく嫌な予感しかしなかったのは衣装に紛れていたもののせいだろうか





「お待たせ!」

「……」

「どうどう?これ花の部分もの凄く頑張ったの!」「…何でキマワリなんだよ」

「この花の部分に丁度良い素材があったからだけど?」



キマワリには悪いが同じ花系ならばキレイハナの方がよっぽど可愛げがある
何故これにしたのかどうにも理解出来なかった
そして考えた結果、きっとピカチュウを作った時の余りなんだろうと納得することにした



「本当はネイティオやりたかったんだけど、色々と難しくて諦めたんだよね」

「……」

「凄く羽の部分とか作れたら可愛いと思うんだけどなぁ…」



キマワリの格好のまま腕を組みながら考え事をする姿はとても異様な光景である
名無しの少しばかりずれている感性に何故だか頭を抱えたくなった



「ま、これはこれで結構良い出来でしょ?」

「まぁ、な」

「じゃ、次のに着替えてくるね!」



ぱたぱたと少し歩きずらそうに名無しは再び奥へと消えていった
次は一体どんなとんでもない格好でやってくるのだろうかと、少しばかり不安になった
隣に座っているニューラはもぐもぐと名前特性のポケモンフーズを頬張っている
心なしか最近毛並みが良くなったような気がする
ふと名無しが消えていった方に視線を向ければ扉から顔を覗かせていた



「なんだよ」

「ごめん、ちょっと手伝ってくれないかな…?」

「なにをだ?」

「背中のチャック上げて欲しいの」



手伝わないことには先に進まないだろうと思い、シルバーは名前の元へと向かった
一人で着れないのにどうやって作ったのだろうかと頭の片隅で考えた



「どれだ…っ、」

「此処のチャックなんだけど」

「な、ば…なんて格好してんだっ!」

「何でって言われても着替えてるからとしか言えないんだけど…」

「兎に角下をはけ!下を!」



少し不満そうな様子を見せ名前はしぶしぶ次の衣装であろうショートパンツに足を通した
その間シルバーは赤いであろう顔を隠したいのと、目のやり場に困ったため背を向けていた

まさか扉を開けてほぼ全裸状態の名無しが現れるとは思ってもいなかった
布の量で言えばビキニのお姉さんと同じかやや少ない位
好きな人物のその姿とくれば意識してしまうのは当然のことで



「前に海行った時と似たような格好なのに」

「名無しは自分が女なのを自覚しろ」

「麗しき乙女ですもの、自覚ぐらいしてます!」



そんな乙女が下着一枚で胸を服で隠しただけの状態で人を呼ぶとは考えられない、という言葉は飲み込んでおく
振り返れば先ほどよりは布の面積は増えたが、相変わらずの露出度に少しくらりとした



「一体何のポケモンだよ」

「だめだめ秘密!全部着てからのお楽しみなの」

「…まぁいい、閉めるから後ろ向け」

「うん、お願い」



くるりと右回りし、名無しは背を向けた
一方シルバーは思わず動きを止める
そして目の前に映る白い肌に思わず気が振れてしまい、無意識のうちに指を滑らせていた



「ん…シルバー何してるの?」

「ぁ、いや…か、髪が付いてたからだ」

「そっか」



好意でやってくれた事と思い込んでいる名無しに少しだけ後ろめたさを感じる
据え膳食わぬとは何とやらとは言うが、如何なものかとシルバーの中で天使と悪魔がバトルを繰り広げていた



「ねぇシルバー、早く」

「……」

「シルバー?」問の声と同時に背に手を添えられ名無しはぴくりと体を震わせる
そして少しの間の後にチャックの閉まる音が聞こえた



「…終わったぞ」

「本当?ありがとう」

「さっさと着替えて終わらせろ」

「冷たいこと言わないでよ、まだまだ付き合ってもらうからね!」



部屋から去っていくシルバーに向かって名前は声を上げる
一方当の本人には言葉は全く入っておらず、早いままの鼓動をどう落ち着かせようかと考えた
部屋にいたニューラがどこかニヤニヤしているように見えて少しだけムカついた

しかしながら今の絶好の機会を逃すのは男としてどうなのかと少しだけ複雑になった
未だ手に残る肌の感触に少しだけ後悔を覚えた後、ぶんぶんと頭を左右に振った



「ニュー」

「…うるせーな」

「何イライラしてるんですか?ご主人」

「してなんかな…」



着替えを終えた名前が現れシルバーに声をかける
否定を示そうと思い視線を名無しに向けたが、思わずそのまま停止してしまった



「どうどう?イーブイ」

「な、何でそんなに布が少ないんだ」

「いや、尻尾を凝りたくて何度も作り直してたら布が足りなくなっちゃって」



それでもこれはどうなのかと思わざるを得ない
尻尾と耳は普通だが、ショートパンツに胸の辺りだけ隠すように覆っている布
腕と足には短めだが茶色のアームカバーの様な物が巻き付けられており、首には特徴的な白いふわふわが巻かれていた



「そういえばニューラはシルバーの事何て呼んでるんだろうね」

「どうゆうことだ?」

「シルバーって呼んでるのかご主人って呼んでるのかってこと」

「ニューッ!」



ぴょいっと右手を上げるニューラに名無しは楽しそうに会話をしていた
相変わらず目のやり場に困っているシルバーの心情など知るよしもないだろう



「へー、そうなんだ」

「わかるのか?」

「あら、私だってポケモンとお話くらいできます」



ねー、とニューラに同意を求める姿に少し苦笑する
そして急にこちらを向いたかと思うとシルバーの前に立った



「何だよ」

「実はシルバーの分も作ったの」

「はっ…?」

「まだ耳しか作れてないんだけどね」



ぱっと取り出されたそれは見覚えのある形
というより自分の後ろに座っている彼の耳である
ちらりとそちらに視線を向ければキラキラした瞳を向けたニューラが目に入った



「断る」

「えー、いいじゃん折角みんなでニューラごっこできる様に2つ作ったんだよ?」

「そんな恥ずかしい物なんかつけれるかよッ」

「えっ、私の格好って恥ずかしい…?」



シルバーの言葉に名無しはしょんぼりとした様子を見せる
確かに現在の格好を言ってしまえば恥ずかしいかもしれない
しかしそんなつもりで言ったつもりはないシルバーは名無しの反応に困ってしまう




「そ、そうだよね…こんな格好恥ずかしいよね…」

「ぃや…そんな意味じゃ」

「いいの!付き合わせちゃってごめんね、ありがとう」

「……」



苦笑いを浮かべる名無しに少しだけ罪悪感を感じる
そしていつの間にか俯いていた名無しの手からニューラの耳の付いたカチューシャを奪い取った



「シルバー…?」

「別に名無しの格好が恥ずかしい訳じゃない」

「…?」

「俺がするのが恥ずかしいだけで、その、名無しは…似合ってる…」



言い終えると共にそっぽを向いてしまい顔色は伺えなかったが、赤くなってることは予想できた
そんな優しさに嬉しさを感じ、名無しはぎゅっとシルバーに抱きついた



「ありがとうっ!」

「べ、別に礼を言われること何て言ってない」

「それでも良いの、これ付けてあげるね」

「おいッ、」



名無しはシルバーの手からカチューシャを奪い返すと頭にはめた
まさかこのような展開に持って行かれるとは思わず、シルバーは頭に付けられたそれを外そうとしたが、嬉しそうにしている彼女と相棒の姿にそれも出来なくなってしまった



「っ…、今日だけだからな」

「本当!ありがとう」

「ニュー!」



再び抱きついてくるその姿に、これも悪くないかと思ってしまう
この後この言葉を前言撤回する出来事が起こるのはまた少し先のお話











あとがき.
シルバーでペースを崩されて絆される
というリクだったのですが、なんだか中途半端な感じになってしまったような気、が…
ネタの元とすれば、FRやってたらイワヤマトンネルで怪獣マニアに出会ってポケモソコスプレって知ってると言われたのでこうなりました←
でもキマワリは破壊力あると思う
ブイとピカとトゥートゥーは趣味です
ぁ、実はこのあとゴールドが来てめっちゃ笑われるという展開がありました

兎にも角にも、リクの方ありがとう御座いました!
大変お待たせしてしまい申し訳ないですoyz
しょうがないでも良いので受け取ってやってくださると嬉しいです…!←


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すぽーん。様の1万フリリク企画に図々しくも参加させていただきました!

レッドさんと擬人化メンバーの方々でも迷ったのですがシルバーを…!
ヒロインちゃんに振り回されるシルバーが大好きです…!
もうね本当にまにましちゃいますよね^//^据え膳食わぬシルバーが可愛すぎヘタレすぎ(誉めてます)で…!
しかもまさかのコ ス プ レ ☆
暁紅さん発想が素敵過ぎます…!ああヒロインちゃん可愛すぎますでへへキマワリとか


暁紅さん、にまもだえる素敵小説をありがとうございました!
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テーマ「人外ファンタジー」
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