こわ・い

 【怖い・恐い】
 [形]カロ・カツ(ク)・イ・イ・ケレ・○
 @危険などを感じて身がすくむ思いである。悪いことが起こりそうで逃げ出したい。恐ろしい。「蛇が―」「―めに合う」
 Aたいした力をもつさま。「一念とは―ものだ」:こは・し(ク)
 
『旺文社モバイル辞典』より




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 確かにお天気お姉さんは言ってた。

 『今日は雷を伴う激しい雨になるでしょう。』

 って。


 油断した。
 午前中、あまりにお天気が良かったからてっきり予報が外れたんだと思ってた。だってあんなに晴れ渡っていたんだもの…。一体この真っ黒な雲は何処からやって来たんだ。
 普段だったらもうすぐ海に夕日が沈む時間で、それはもうキラキラと水面が綺麗に輝いてずっと見ていたいくらいの光景なのに今日のこの黒雲。空全体を包んで既にもう部屋の照明をつけなければ目に優しくないくらいに薄暗い。

 「ばかばかばかばか予蔦のばか、早く帰ってきなさいよぉおおお」

 予蔦と砂響をお使いと言う名のパシりにだしたのは間違いなく自分であり、その用事もそう早く帰って来れるものではないと分かっているのだが…。罪なきパシりに「ばか」を連呼しながら自室をうろうろと落ち着きなく歩き回る。

 自分は雷が嫌いだ。別にお臍をとられるだなんてこれっぽっちも思っていないが、あの光が、あの音が、あの振動が。とにかくダメなのだ。だから遊千にだって覚えさせたのは雷でなく10万ボルト。他に電気タイプのポケモンは今のところいないし、電気技も電磁波ぐらいしか覚えさせていない。イッシュの伝説にボルトロスなんて特にけしからんポケモンがいるけど、百万が一見つけたら絶対倒してみせる。って言うのは無理っぽそうだし大変宜しくない事なので、この町には極力、と言うか絶対に近寄らないで下さいとひたすら頼み込もうと思う。話が伝わるかは分からないけど。そう言えば知人の妹が伝説のポケモンを仲間にしてるとかどうとか言っていた。どんなポケモンかは分からないけどいざとなったら協力を仰いでボルトロスと話をつけてもらおう。シンオウからの旅費はもちろんこちらが全額負担する。
 そんな現実逃避っぽくも半分以上本気な脳内会議をしている間にも雨がざあざあと降りだした。まずい。これは非常にまずい。

 「ばかねつだ…っ」

 自分がここまで雷嫌いなのを知ってるのは予蔦だけだったりする。他のメンバーは知らない。多分。きっと。
 その予蔦がジャローダになってからというもの、いつも雷の間は原型に戻ってもらい、そのとぐろの中にハマって布団を被り耳を塞いでどうにかやり過ごしていた。自分でもこの行動は訳が分からないが、こうすれば少しは平気な気がするのだ。

 しかし今回はいない。

 どうする…莉子…!

 混乱し始めた頭で、取り敢えずヘッドホンで音楽を流しつつベッドに潜り込むと言う作戦をたてた。みんなには読書に勤しもうと思うから部屋には入るなと言ってある。

 よし、これできっと大丈夫。
 先ほどたてた計画を実行にうつす。布団に潜り込む前に遠の方で微かにごろごろ鳴り出していた。良かった間に合った。
 と思ったのもつかの間、轟音と共に家が揺れた。
 「ぅひいいいっ!」
 しかもかなり音も聞こえる。聞こえる、と言うか最早これは感じる、だ。
 やばいやばいやばいこれはやばい作戦失敗戦意喪失だやっぱり誰かに
 「    」
 「っびゃあああ!」
 わけの分からない感触。突如何かにより暗闇の砦(布団)は排除された。
 「      」

 「…か、かね…ひら?」

 そこに居たのは大きな瞳を心配そうに歪めた銀平だった。
 「       」
 何かを言ってるがヘッドホンのせいで聞こえない。しょうがない。私は意を決して防音の兜を外した。瞬間

 カッ

 「やっ」
 ドオオオオォォォン!
 「かねひら落ちたああああああああっ!!」
 轟音と振動、地響きと共に反射的に銀平にしがみつく。
 「っ!大丈夫マスター、雷落ちてませんっ」
 「むむむ無理!無理!だって!落ちる!怖い!雷!銀平っ!」
 「マスター落ち着いて…っ!」
 自分が半泣きで何を言っているのかも何で銀平が部屋に入ってきたかも全部良く分からないけど、とにかくその細い身体に必死にしがみついた。
 「……っ」

 「莉子っ!…さん」
 
 「ひゃいっ!?」

 凛とした声が雨音纏う部屋にピシャリと響く。
 今まで1度も名前で呼ばれたことが無かった莉子は驚きで我にかえった。
 顔をあげると中性的で綺麗とも可愛いともとれる整った銀平の顔。
 「大丈夫マスター。怖くないです」
 「ぎん…ぺ…?」
 「はい」
 さらさらの髪を揺らしその顔がふわりと微笑む。
 「ごめ…雷が…」
 「はい」
 「その…えっと…こわ…イヤで、ね…?」
 「はい」
 「いつもは予蔦が…」
 細くて綺麗だけど、やっぱりすこし男の子っぽい銀平の手が両頬に触れられる。

 そして優しく、唇と唇がふれた。

 「!…っ!?」
 「あ。」
 「かっ…かかか銀っ平っ!?っは、なっ…!?」
 再び大混乱に陥る脳内。一体何が起こった。
 「すいません。マスターが可愛くてつい」
 「つい!?」
 「…本能?」
 「本能!!!?」
 可愛らしく首を傾げる銀平。普段なら和み癒されるところだろうが今はそれどころではない。取り敢えず、落ち着いて心臓落ち着いて血流落ち着いて脳みそ。そしたらほら銀平を諭さなくちゃ。ついとか本能とか、取り敢えず落ち着こうよと。私は大丈夫だからもう怖くないから―…怖い?何が

 「マスター」

 「っはい!?」
 「良かったですね、雷も雨もいってしまいました」




 「え?」




〇〇〇〇こわい!


 (…もしかして雷よりも銀平の方がある意味…)
 「マスター」
 「なっ…何?」
 「もう1回、良いですか?」
 「!!」


2011.4.2




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