私達と違う君達と暮らすようになって、ずっと考えていた事があった。
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「なぁなぁ、莉子幸せか!?」
「…は?」
ソファで月刊Pリーグを読んでた私に何の前振りもなく予蔦は尋ねてきた。
幸せ?
いや、ええと…?
自分が不幸だとは思わないけどいきなりそんなことを聞かれると困る。
「いきなり何よ?」
「いやな、しーあわっせなーら手ーをたったこ〜♪って歌ぁあるやんか!」
まぁ歌詞で分かるけど…
「音痴」
「だああああぁっとる!わぁっとるからそこは触らんといて!?で!な!?あれな、ぱちん叩いたらもぉぉぉっと幸せが集もうてくるんやて!あれぇ幸せを呼ぶ音なんやて!」
「…………はあ、そうですか。」
なんだそのケサランパサランみたいな都市伝説は。
「ノリ悪ぅ!なんや莉子信じえんのか!?これめっちゃ凄い発見やんかぁ!」
いや、そんな大興奮で言われても、ねえ?…うん。ちょっと今回は反応に困るわー…。
「信じないって言うか…まさかあんた本気で、って言うかその前に予蔦幸せなの―…っ」
自分の言葉に一瞬にして胸が凍りついた気がした。
勢いと言うか流れで口から出てしまったけれど、それはいままでずっと怖くて聞けなかった疑問で…。
が、その氷もまた一瞬で消えることとなった。
「わいか?わいはめぇぇぇぇっちゃ!超ド級に幸せやで!」
「ふい!?」
自信満々に胸を張って自分は幸せだと即答した予蔦に思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。
「しあわ…せ?」
「あったりまえやんかぁ!美味しい空気の平和な町にぃ、テーセーもぎんぺーもうのも他もぉ、みぃんなええ奴等が仲間やろー?そんで自分の居場所がおおてぇ、何より莉子がいっつもそばにおるやんかぁ!」
最後の幸せ要素にどきりとする。
「…わ、私?」
「せやでぇ!わいなぁ、ほんっとー莉子とでおうて幸せなんやで?どこがっつーのぉ聞かれたぁ困るんやけどな、んーと…とにかく全部めっちゃ幸せなん!ありがとなぁ莉子!」
まさかそんな返答、お礼がくるとは思わなかった。
「べ、別に!私は、何も、してないし…むしろ私が、予蔦の…」
俯くと同時に尻すぼみになって声が消える。
本当はいつも不安だった。予蔦達を私の勝手我が儘で縛り付けてるんじゃないかって。本当は皆外で自由に生きたいんじゃないかって。だって本来ならこの広い世界を野生で自由に生き抜いてた筈でしょう?
「んん?莉子?」
それなのに…それなのに予蔦は今の生活がすごく幸せだと言ってくれた。
安堵と嬉しさで目頭が熱くなる。
俯き黙り込んだ私を不思議に思って覗き込もうとする予蔦の両頬に
バチン!
「あっだぁっ!?」
大きなクラップ音が響いた。
「な、莉子!?」
「し…幸せっ!!私も!」
気持ちを伝えようとしたらそれに比例してしまったのか、とんでもなく大きな声が出てしまった。
やばい、恥ずかしくてしにそうだ。それに顔は下げてるけど絶対真っ赤な耳が見えてる。
急いで手を離し耳を隠そうとしたけれど、予蔦の頬にある私の両手はその上から意外と大きな両手に握られ動かすことは出来なかった。
「!」
反射的に見上げたさきにあった顔。
「…!そぉか!」
その顔から目が離せなかった。
手に伝わる頬の熱は叩かれたせいだけか否か。
私の手を握った予蔦の笑顔は溶けてしまうんじゃないかと思うくらい、それくらい本当に幸せそうだった。
ハッピークラップ
(わいら、ずぅぅぅぅっと一緒におろうな!)
(…あっ、当たり前でしょ!)
2011.3.31