暖かい日差しがさしこむリビングで、銀平お手製のクッキーを片手に紅茶を楽しむ。
予蔦らをおつかいに出し手に入れたのどかなティータイム。賑やかなのも嫌いじゃないけどたまにはこんな静かな一時も良いものだわ。争奪戦にならないからゆっくりと味わえるし。
「銀平、クッキーすっごく美味しいわ!もう本当っ!」
可愛らしい星や花、きれいな市松模様、色々な形があるだけでも楽しくなってくるのに、それが素晴らしく美味しいとなると頬が弛みっぱなしになるのもしょうがない。
「本当ですか?マスター。良かった」
正面に座る銀平はふわりと微笑むと淹れたての紅茶に口をつけた。綺麗な笑顔だなぁ。顔は整ってるし純粋素直な良い子だし、マイナスイオン発生させてるしお菓子作りは上手だし。本当
「…マスター?」
サクサクと小気味良い音が止まった事を不思議に思い銀平は首を傾げる。
そのマスターは自分を見つめている。
「何か…俺の顔についてます…か?」
「ううん、違くて」
手にされていたものの待ちぼうけをくらっていた歯車型のクッキーを口にほうり、幸せそうに頬に手をあてると莉子は続けた。うーん、美味しい。
「えっとね、時がたつのは早いなーって」
「時…ですか?」
「うん。だって私が銀平と出会ったのはまだ銀平はタマゴだったのよ?それが今はもうギギギアルで…時の流れを感じずにはいれないわ」
でしょ?と笑うと上品な香りをたてる紅茶に手を伸ばした。うーん、紅茶も美味しくて幸せ。
そう、あの頃はまだ銀平はタマゴで、皆も今の姿じゃなかったのよね。それがこんなに立派になっちゃって‥‥ってなんか凄くおばさんじゃない今の私。そうよね、そのぶん私も歳をとっているわけで
「……」
「マスター。…マスター?」
「ぅえっ!?」
いけないいけない、つい遠い目になってしまったわ。
「な、何かしら?銀平」
「あ、いえ。マスターは可愛くなりました、と」
「…は?」
美少年とも美青年ともとれる美人スマイルで賛辞を紡ぐ。
「出会いの時より日に日にマスターは可愛くなって。俺達は困ります」
銀平の言葉に開いた口が塞がらない。顔にどんどん熱が集まってくるのが分かる。え、銀平ってこんなこと言う子だったっ…け……って言うか天然‥タラシ?
「笑顔も怒った顔もその頬を染めた顔も…全てが全て、大好きです」
一体どうしたの銀平!?
「う…あ…そ、そう言うのは他所さまで言っちゃだめよ!?」
こんな顔の整った可愛い子に笑顔でこんな事言われたら普通の女の子は大混乱だわ!
「?もちろんです。マスターにしか言いません」
「なぁっ…あ…ぁ」
その前に、私が、大混乱で…!落ち着け、落ち着くのよ莉子…!
「他にもクッキーを幸せそうに頬張るところや木陰で昼寝をされてるときなんかも―」
「もっ、もういいもういいっ!わ、私紅茶淹れてくる!」
残ってた紅茶を勢い良く流し込み、ガッと席を立つと銀平はテーブルの脇を指差した。
「ポットならここに…?」
「ぐ…ちゃ、茶葉取ってくる!」
「茶葉もこちらに」
今度もまた然り。
「ううっ…!ぎ、ぎんぺのタラシ!」
何の事かさっぱりと首を傾げ見上げてくるピュアっ子を前に、行き場を無くした私はガタンと席についた。
時の流れと言うものは
(ぐぬぬ……銀平、恐ろしい子…!)
(いま戻ったでー!ん?莉子どしたん?顔真っ赤やで)
(うっ、うっさい見るなあほおお!)
(あだぁあっ!!)
2011.1.24
2011.4.2修正