足元も、吐く息も、葉の落ちた樹も、みんなまっ白。辺り一面銀世界。
 でも凍える寒さも気にならない。だって
 
 「かーねーつーだっ!」
 「なん…をぶっ!」

 前を歩く予蔦に雪玉を投げるのスゴく楽しいんだもん。やった当たったわ。

 「うおおおおい莉子ー!わいめっちゃ寒い、つか冷たいのダメなんおま知っ…ってちょお待っ!」
 「あはははは!」
 必死に抗議してるけど気にせず問答無用とばかりに一方的に雪玉を投げつける。
 ぬ、避けられた。こしゃくな。
 ならばこれならどうだ。と、一段と大きな雪玉を投げる。
 「どわっぶ!」
 よし、やったわ。予蔦の顔面、100点満点。
 「ぶはっ!せやから待てぃゆーとるやろーがっ!」
 「何よ。降参?」

 するとへへー!とばかりに純白の雪の上で恭しく平伏す予蔦。
 「降参や降参んんんわいがわろぅございました!全て、全て莉子様が正しいですぅううってはいぃ!?いやちょ、おま、わいら勝負しとったんか!?」
 「いや、別に?」
 勝負なんかしてないけど。って言うか冷たいだろうにノリツッコミごくろうさま。
 「何やねん!おかしいやろ!」
 そんでもって普通のツッコミもごくろうさま。


 「つーかテーセーとかどないしたんや。ぎんぺーもー」

 なんでわいだけこないな目にあわんと…と、ぶつぶつ言いながら服に付いた雪を払い始める予蔦。あれ、拗ねた?

 うーん、草ヘビ相手にやり過ぎたかしら。ヘビなら普通冬は冬眠するもんだし。

 「予蔦」
 「何やねん」
 おー、さぶ。とか言いながら眉間にシワを寄せ、未だに雪を払っている予蔦に尋ねてみる。

 「永m…冬眠する?」
 「おま!今、永眠ゆおーと!?」
 細かいことは気にするもんじゃないわ。
 「『 冬 眠 』する?」
 「な、何やねん急に」

 「考えてみればヘビって普通は冬眠をするものだわ。」
 「ほう。…んで?」
 何やコイツは、と言わんばかりの目で人の事見て…失礼だわ。とは思うもヘビに促され続ける。

 「で、よ。ヘビが冬に起きて活動してるのはもしかして、とても大変な事なんじゃないのかしら?」
 さくり。と、もしかしたら予蔦には毒なのかもしれない雪を踏みしめた。


 「?」
 反応がない。
 顔をあげると予蔦は何も言わずにぽかんとアホ面でこちらを見つめていた。
 「何?口開けてると虫が入るわよ」
 しかしそのアホ面は彫刻よろしく動かぬまま。

 かと思いきや

 「莉子ーーーーっっ!!」
 「ぅきゃぁぁぁあああ!?」 いきなりこちらに向かって全力ダイブ。
 もちろん私が自分より頭1つ分デカイ予蔦をしっかり受け止められる筈はなく…。自然と雪の上に押し倒されるかたちとなった。
 「重!冷たっ!」
 「莉子〜っ!」
 「なぁああ何よいきなり!!って言うかどきなさい!」

 ジタバタと手足を動かそうにも、しっかりと抱き締められているために全く身動きが取れない。
 「せやなせやな〜!莉子はわいを心配してくれとるんやなー!」
 「はぁ!?んなっ」
 「むふふーみなまで言わんでええって!分かっとる!わいは分かっとるでぇえ!」
 緩みきった顔で頬をすりよせてくる。近い近い近い近い!しかも顔が熱い。
 いや、しかしこの顔の熱は違うのよ。そう、これは不可抗力と言うものなのだわ。誰でも異性の顔が至近距離にあったら赤くなるでしょう。そうでしょう。そうよね。そうなの。そう。
 だけど予蔦に気付かれるのは激しく癪なわけで。
 そうなる前にそっぽを向こうと、試みる、の、だけれど

 「ひあっ!?」
 「んを?どないしたん?」
 「マ、マフラーの中に雪が…っ。って言うかいい加減どきなさい!身体冷えちゃうでしょ!?」
 キッ、と自分では強気に睨み付けてみたつもりだったのだけど、ヤツは無垢な笑顔でとんでもない事を言ってのけた。


 「問題あらへん。わいがあっためてやるさかい!」


 「っっ!」
 本気でボッ、って顔に火が着いたかと思った。
 「な?莉子!」
 そんな満面の笑みでこいつ…意味分かって…
 「んを?どないしたん、莉子。顔が赤」


 「だっ、誰のせいだと思ってるんだいい加減どけえええええええっ!!」


 ガキンッ



 かち割るような頭突き音と間抜けな叫び声が白一面にこだました。





ほわいとはーと



(うぐおおおおおう…わ、わい何かスーパー頭突きくらわなあかんようなことしたんかいぃい…)
(うっさいバカ!予蔦なんか知らない!)


'11.1.10


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