「猿も木から滑るって言うでしょ!」
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「はーい。じゃあ『河童の』?」
「皿流れ」
「川流れ。皿を流してどーすんですか。河童死んじゃいますよ」
「ぐ…」
「はい次。『馬の耳に』?」
「乾物!」
「念仏ですー。…じょうさん、腹減ってんですか?」
「へ、減ってなんかないわよ!」
事の始まりは30分前。あの一言。私があまりにもことわざを間違えて覚えているらしく、それに対し定正が「じょうさん、恥ずかしいですよ」とのたまいおった。「そんな事はない!」と言い張ったが最後、今に至っていたりする。
おかしい。私が覚えていたのは一体なんだったんだ。
「だ、大体ことわざなんて訳が分かんないのよ!朝飯前の数の子さいさいとか!さいさいって何よさいさいって!」
自分の無駄としか言い様がない間違い知識にきしゃー!っとなるとこれまた定正が呆れ顔で指摘してくる。
「あーじょうさんじょうさん?数の子じゃなくてお茶の子ですよ」
こないだバトルで勝った後に言おうと思ったんだけど…言わなくて良かったわ。
「そんでさいさいですけど、それはさらさらをもじった囃子詞(はやしことば)ですよ」
何でそんなことまで知ってんのよ定正。
「ほかに何かありますか?ことわざだったら俺さんが何でも教えてあげますよ」
「…むう」
なんか…なんか負けたくない。何がかは自分でも良く分からないけど、どうにか定正の言葉を詰まらせてやりたいわ。
「じょうさん?」
「じゃっ、じゃあ鳩に水鉄砲ってどんな感じよ!」
「豆鉄砲です」
「む、それかもしれないわ…!って私は鳩がどんな感じなのか知りたいの。さぁ定正、鳩はどんな感じなの!?」
「…」
定正は何か呆れたような微妙な顔をしているけど勝ったわ。私の勝ちね!
「じょうさん」
「何かしら?」
別に勝負をしているわけでもないのにふふん、とばかりに勝ち誇った笑みがこぼれる。やだ私ったら性格悪いじゃない。知ってるけど。
そんなことを一人で考えていたのがいけなかった。
気付けば面前には定正の細められた鈍色の瞳。
気付けば唇に柔らかい感触。
「っ!?」
あまりの出来事に言葉が出ない。顔が熱い。
莉子 は こんらんした。
っていやいやいやいや!待って!今何が!?何され…!?
そんな私に、勝ちを確信したような笑みで目の前の赤モヒカンはさらりとこうのたまった。
「鳩に豆鉄砲、そんな感じじゃないですか?」
コトワザコワザ
(あー、でも顔真っ赤ですし違いますねー)
(ババババカ!?バカ?!バカ!!)