閑(しずか)な夜でした。
小江戸を寝かしつけた私は、無数の星が煌めく下で一人空をミておりました。
何故かと?
簡単な話。
こうすれば…ほら、あの方も私に気付きこちらにやってくる。
「藤灯、どうしたの?」
私は言葉の代わりに微笑みを返します。
私はあまり言葉を発しません。前世が嘘つきな罪人だったのでしょうか、口が縫われているからです。そのため私の声はくぐもって聞き取りにくい。それ故恐らく莉子様のお耳を汚してしまうでしょう。それは極力避けたいのです。なので私はテレパスで意思を送っております。最初は驚かれた莉子様も今ではごく自然に受け止めて下さいます。
「星を観ていたの?」
私が微笑み頷くと莉子様も星空を見上げました。
嗚呼、今宵の星空は一段と閑で…美しい。
いっそこの美しい世界に私と莉子様、二人きりならばどれほど良いかと何度思った事でしょう。
しかしそれは許されません。
…嗚呼そうか、私の前世は恐らくそれを実行に移そうとしたのではないだろうか、と。
それなのにまたもここまで愛おしい方を私の目の前にお創りになるとは…なんと神は罪深い。
「…ひ。藤灯、どうかしたの?」
いけません。莉子様の御声を聴きそびれてしまいました。莉子様が心配そうにその澄んだ瞳でこちらを見上げております。
『申し訳ございません。何でもありませんよ』
そうテレパスを送ると莉子様は安堵の表情を浮かべ、「そう?なら良いんだけど」とまた視線を星空に戻されました。
今度は私もこの美しい星空を見上げます。
そしてやはり思ってしまうのです。
嗚呼、時が止まれば良いのに…と。
ユウアイ
(二人きりが許されるのはきっと…)
(それまで私は待ちましょう)
2011.4.16