微腐&暗いです。
「俺…死ぬなら、お前に殺されたい」
「は?」
いきなり何を言い出すのじゃこやつは。あまりの唐突さにお主が買ってきてくれた胡桃ゆべしを落としてしまったではないか。わしの大好きな胡桃ゆべしを。
「バカかお主は。いきなりなんじゃ」
ゆべしを拾いながらそう言うと奴は「いや」と言った。さっぱり訳が分からん。
「殺して欲しい…殺して欲しい…うーん…少し違うか。看取って欲しい」
何を笑えぬ事をぶつぶつと。
どうやら今日のこやつは頭が可笑しいらしい。今日はそこまで暑くはないのじゃが…むしろお主の傍にいるわしの方が暑いわ。
「あぁ、俺が視るものの最後はお前がいい。そうだ、これだな!あ、でも殺されるならやっぱりお前が良いのは変わらないぞ?」
……。
「まだそんなことを言うのか!」
そんなつまらん話などが聞きたくてお主と茶を飲んでる訳ではないのが分からんのか、このたわけが。
「銀(イン)……」
奴はわしの名を呼ぶとそのでかい図体で抱きしめてきおった。
「何じゃ暑苦しい」
じゃがどこか可笑しいこやつを安易に引き剥がす事などわしには出来るわけもなく。
「……………………………」
本当に訳が分からん。
「どうした、貴陽」
尋ねると返事のつもりか知らんが、わしを抱く腕に力がこもる。うむ、ここまでくると本気で可笑しい。
わしより二回りも三回りもでかいはずの貴陽が今はまるで小さな童のようで…。奴の背中をあやすようにぽんぽん、とたたくとやっと口を開いた。
「――が……死んだんだ」
「………何じゃと?」
出てきたのはこやつの友人のポケモンの名前じゃった。
「人間に殺された……」
「…………………」
わしは人間が好きじゃ。あの小さき存在は面白いし愛しいとも思う。しかし…。
「そうか…」
わしがそう言うと奴は微かに頷きまた黙りこくった。
ぽん、ぽん、と背中をたたき続ける。
貴陽、わしはたまに思うのじゃ。暖かく心優しきホウオウ、わしとお主が番(つがい)で良かったのであろうか、と。勿論お主のことは好きじゃ。無二の存在じゃ。他の者など考えられぬ。が。訃報を受けてもこのわしの凪いだ心、何ともお主と違って薄情ではないか。
『最期はお前が良い』
あぁ…そうか、それ故か。
悲しくなんぞない。
「……分かったから。もうそろそろ離さぬか」
「いやだ」
「…………………………お主」
「銀はどこにもいかないでくれ」
無茶を言う。わしはお主よりも長く生きておるのと言うのに。
「…分かった、お主をおいてどこにもいかん」
それでもこう言ってしまうのはわしが薄情だからであろうか…。
絶対にわしは貴陽よりも先に逝く。これは絶対に、じゃ。
お主も分かっておる事ではないか。
納得したのか暑苦しさから解放される。
音のない声が響いた
一番最初の台詞をレジエに言わせたくてつらつら書いてたらこんなのになってしまいました。2010.7.13