豪雨、と言って良い程の雨が降っている。
「ちっ…かなり降ってきやがったな…」
小さな洞穴内。パチパチと音をたてる焚き火の前で憎々しげに眉間にシワを寄せ、水が滴る髪をかき上げながらビゼンは呟いた。
「そう…だね」
私はこたえる。
彼のは独り言で、私に返事を求めてないのは分かっているけれど…。いつもそう。
「………………」
沈黙。これもいつもの事、なのだけれど今の私にはそれがとても苦しい。
「今日は…ごめんなさい」
今日、私タチは初めて負けた。
以前から手に入れたがっていた金髪の少女のバクフーン。ビゼンは自分についてくれば強くなれると言う事を示すため、少女とバトルをし、それに勝利した。けれど少女と一緒にいた黒髪の女性トレーナーが「人のポケモンをとろうだなんて根性叩き直してやるわ」と、ビゼンにバトルを叩きつけ、それに私タチは…負けた。
「何故お前が謝る」
イラついた声音が洞穴内に響く。
「っ、それは、私が…っ」
あの時技を外さなければ…。などと言う問題ではなかった。彼女はドダイトスしかバトルに出してこなかったのだ。こちらにグレイシアがいたにも関わらず。
格が、違った。
「…ごめんなさい」
「…………ふん」
雨足が一層強くなる。
この場に居づらい。逃げ出したい。けれどここに居たい。居なくちゃいけない。
そんな矛盾した気持ちを抱きながら膝を抱えるとカラン。と、薪(たきぎ)が崩れた。
「今日の事は」
「え?」
彼の言葉をきちんと受け止めようと顔をあげると、1つの紅い光が私をとらえた。
「今日の事は一生忘れるな。」
目を反らす事の出来ない…とても強く、とても鋭い光。
「2度は無いからな」
その光にのみ込まれそうになりながらも私は震える手を握りしめ、紅い瞳の主に誓った。
「…っはい!」
マケ・アメ・チカイ ・終