すっぽりと頭まで布団を被ればたちまち秘密基地に早変わり。これで暫くはやつの目を眩ますことができるはずだ


「バレバレだ 馬鹿野郎」

「ぎゃ!せ セクハラ!」


ばちん、と容赦なくお尻を叩かれて飛び上がる。犯人は言わずもがな、あたしが隠れる原因をつくった跡部景吾その人だ。叩かれたお尻を摩りながら、頭隠して尻隠さずとゆう言葉を染々と体感した。当の景吾は何もなかったかのように、さも当たり前にあたしの布団に潜り込んできた。端に追いやられ、掛け布団を引き剥がされたあたしが抗議すると、うるせぇ、と一言言うと背を向けてしまった。寝る気だ


「いい加減自分のベッドで寝なよ。居候のあたしを床で寝させる意味ないじゃん」

「ああん?てめえがベッドが嫌だとか言うからいけねぇんだろうが」

「ベッドが嫌なんじゃなくて景吾と寝るのが嫌なの」


跡部家に居候させてもらって早1年。なぜだかこのボンボンはあたしを同じベッドで寝させようと躍起だった。しかしあたしも一応年頃の乙女だから、とゆう跡部パパとママの説得によりなんとか丸く収まったはずだったが、現状はこれだ。景吾の我儘はしょっちゅうの事だけど、我儘の理由は決して理不尽ではなかった。今回の我儘は跡部パパとママも、長年景吾をお世話している執事さんも理由がわからないと嘆いておられる。今までは全然手のかからない子だったんだけどね。跡部ママはそう言って首を傾げていた

あたしは理由を知っている

景吾とは従兄弟同士だしずっと一緒にいたから、あたし自身は同じベッドで寝ることに抵抗はなかった。だから居候初日からあたしの布団に潜り込んできた景吾を拒むことをしなかった。それから暫く二人で下らない話をして、徐々に口数が減って、景吾から静かな吐息が聞こえ始めた頃。こっそり覗き見た景吾の寝顔。彼は泣いていた

はじめは信じられなかった。まさかあの景吾が泣いてるなんて。動揺して訳もなく不安になって、景吾に泣き止んでほしくて慌てた。まるで硝子細工に触れるようにそっと景吾の肩を撫でれば、景吾は小さく切ない言葉を呟いた。ああそうか、景吾は寂しいのだ。傲慢で自信家な彼の闇を知った瞬間だった


「今日も一緒に寝るの?」

「文句あんのか?」

「あたし一応女の子なんだよ」

「女なら 泣いて喜ぶぜ」

「……あの人たちと一緒にしないでよ」


あたしがああ言えばこう言う景吾。手のかからない子だと褒められてきた景吾の過去は真夜中に彼を弱くする。その姿を知ってるのはあたしだけで、きっと彼を救えるのもあたしなんだろうけど、涙を流す景吾を見ると体がすくんで動けなくなって、毎晩毎晩見てみぬふりをする。だから景吾と寝るのは嫌い。苦しむ景吾を隣で眺めているずるいあたし


「いつまでも拗ねてないでさっさと寝ろ。明日も早い」

「…わかってるよ」


嫌なら捕まれた腕を振りほどけばいいのだろう。そうすれば景吾の弱さを知らなくてすんだのに。だけど一旦知ってしまったからにはもう遅い。今あたしが景吾の腕を振りほどけば、きっと彼はもっともっと苦しい思いをするとゆうことを、あたしは知っている


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