「今日部活ない」
あっそ。あたしがそんだけ返したら仁王は信じられん、と小さな声で絶望した。よろよろ後ろに後退する仁王を横目で見ながら対して中身のない鞄を持ち上げて仁王に向き合った。小さく息を詰めた仁王。なにびびってんのよ、一緒に帰るんでしょ
「なぁ 寄り道したい」
顔中の筋肉を緩ませてへらへらした仁王は、然り気無くあたしの右手に自分の左手を絡ませた。別に、嫌じゃない
「寄り道しない。今日は真っ直ぐ帰るの」
「やだやだやだやだやだ」
「うるさい。毎日部活帰りに丸井くんとか切原くんとかと寄り道してるからいいじゃん」
「俺 銀河と寄り道したい」
「騙されないから」
仁王の両手で捕まれてしまった右手を振りほどいて邪念を消し去るように頭を振った。仁王の子犬光線(切ない目線)にほだされてしまいそうになるわけない。せっかく部活休みなんだから、寄り道なんかしないで帰ればいいじゃん
「じゃあ銀河の家行く」
「仁王の家反対方向じゃん。結局寄り道してるよね」
「それでよか」
「真っ直ぐ帰れ馬鹿犬」
「ば…ッ?!」
よろりとふらついた仁王を無視してあたしは真っ直ぐ家へと足を進めた。後ろで薄情者、最後まで面倒みるのが飼い主の役目だのなんだの吠える仁王。あんたがもう少し利口だったらもうちょっと可愛がったかも
「あたしばっか責めてないで己の行動を反省しなさい」
「甘やかしてくれたら考える」
「仁王 ハウス」
「…………いやじゃ」
なんて反抗的。仁王は再びあたしの手を取って珍しく眉をキリリと吊り上げた
「飼い主を守るのも忠犬の役目の1つやとおもわんか」
「………ばかでしょ」
「はい決まり。帰るぜよ」
結局あたしは子犬光線ならぬ忠犬光線にやられてしまったのだった