「わたし帰って」
「いいわけないでしょ君本当にどうしようもなく馬鹿だね。この状況でそんなこと言えるなんて図太すぎるんじゃない」
「………すいません」
「謝る暇があるんだったらさっさと終わらせなよ」
なんだよこの屈辱感は。まるであたしのせいみたいな言い方するんですね雲雀先生。担任の貴方がちゃんと抜かりなく毎日コツコツと書類を整理していてくれたら副担任のあたしは巻き添え食らうことなく副担任としての責務を全うできたのに。てゆうかこれって書類改竄にあたりません?
「二人で作業してるのに 僕一人でやるより効率悪いんだけど」
「だったら雲雀先生が一人でやってくださいよ。あたし帰りますから」
「馬鹿だね君。なんで僕だけ仕事しなきゃいけないの」
「貴方の仕事だからです」
生徒たちはとても穏やかで優しい子たちばかりだ。生徒たちがそうなるのは雲雀先生が反面教師として頑張っているからであり、その絶対王政の被害を直に受けているあたしへの労りの気持ち。1日の内で大丈夫ですか?と声を掛けられない時間はない。担任による副担任いびりはそれほど目に余る。ジロリと雲雀先生を睨めば、ギロリと睨み返されて小さくなるあたし。もうやだ…。帰りたい
「雲雀先生… あたしもう副担任をやっていく自信がありません」
「そもそも自信あったの」
「…………」
「冗談だよ」
「あははおもしろーい…」
冗談に聞こえないんですけど。てゆうか真顔で冗談言われても笑えない。雲雀先生が担任のじゃなかったら、きっとあたしはもっといい副担任として頑張っていたのだろう。運命を呪いますねこりゃ。机に突っ伏したあたしの後頭部に雲雀先生の視線がビシビシ刺さる。起きなきゃ叩かれるんだけど、もうそんな力残ってない
「こないだ うちのクラスの男子生徒が女子生徒に嫌がらせしてたんだよ」
「それ止めさせたのあたしです。雲雀先生知ってたんですか」
「銀河。男子生徒が女子生徒に嫌がらせした理由知ってるかい?」
「さあ。そこまでは」
鈴木さんは髪を引っ張られたと言って泣いていた。何もしてない女の子を苛めるなんて許せない。あたしは鈴木さんの髪を引っ張った田中くんを叱った。叱られた田中くんは鈴木さんに謝らなかったけれど、その日の放課後二人が手を繋いで帰っているのを見た時はコーヒーを吹き出してしまった。年頃とはよくわからない
「男ってゆうのはね 好きな子を苛めたくなる生き物なんだ」
「ああ だからあの二人…」
一緒に帰ってたんですね。あたしが叱ってから放課後までの間に一体どんなドラマがあったか知らないが、何て遠回りな恋なんだ。好きな子を苛めるなんて不毛だしある意味賭みたいなもんだ。あの子たちの場合はうまくいったからいいものを、一歩間違えれば一生振り向いてもらえない傷をつくることになりかねない。ああ、若いっていいなぁ。書類を再開させたあたしはため息をついた
「僕は 男子生徒の気持ちがよくわかる」
「…雲雀先生も 好きな子を苛めたくなるんですか?」
「君は女子生徒の気持ちがわからないの?」
「何を仰りたいのですか?」
「君のこと 好きなんだけど」
雲雀先生はなんでも無いようにサラリと好きだと言った。いや聞き間違い?好きだとかそんなサラッと言えないよね?雲雀先生。名前を読んだら雲雀先生はあたしを見た。いつもみたいに真顔の雲雀先生。それはやっぱり冗談なんですか?
「返事はないの?」
「へ?あ 本気ですか?」
「君失礼だね」
「いえすいません…」
返事は、って言われても今まで恋愛対象として認識したことなかったし、むしろ敵だったしそんな急に好きって言われて射程圏ないに入るわけない。それにあたしは若くない。遠回しなアピールで想いを募らせるほど青臭くないのだ。雲雀先生が以外と思春期だったことには驚いたけど、残念ですがあたしと貴方は鈴木さんと田中くんのようにはなれません
「あたし 遠回りって好きじゃないんです。次いでに言えば雲雀先生からの姑染みた嫌がらせも耐えれません」
「ああ そうだったの」
「軽ッ!まあ そうゆう訳であたしは辞職も考えていたんですが」
「何言ってるの。辞めたら君と会えないじゃない」
あ、やばい今のキュンと来た
「とにかくあたしが何を言いたいかと言いますと あたしの事が好きならもっと優しくしてください」
「なんで」
「優しい人が好きだからです」
「ふうん」
興味なさそうに頷いた雲雀先生。貴方は何がしたいんですか
「楽しみにしておくといい」
何がですか雲雀先生。そう聞かなくたって、イイコトじゃないって事くらい雲雀先生の笑顔を見ればよくわかる。書類はまだまだ山のようにあって今日家に帰れるかどうかも怪しい。あたしと雲雀先生は二人きり。いやに自信満々の雲雀先生。この書類の山がなくなる頃にはあたしと雲雀先生も、鈴木さんと田中くんのようになってしまうのだろうか。もうやだな。あたしはこっそりため息をついた