あたしの隣の席の鳳くん。珍しく教科書を忘れたらしいので、見せてあげようと思う
「ありがとう銀河さん。すごく助かるよ」
「気にしないで」
いつも隣で盗み見るよりはっきりと、ずっと近い距離の彼はあたしに微笑んだ。絵に描いたような、とはまさにこのことだ。美少年鳳長太郎
「銀河さん どうかした?俺の顔 何かついてるかな?」
「え… 何もついてないよ」
「そっか」
見つめすぎた。あたしはもう一度何でもないよ、と言って目を逸らした。しょうがないだってとても綺麗なんだもん。彼の敬愛する「宍戸さん」の話をしている時とは違う、甘い笑顔。仲の良い「日吉」と話すときの無邪気さは感じない、落ち着いた話声。いつも見てる鳳くんじゃない鳳くんにドキンとする。横目で鳳くんを盗み見ると、彼はまだこちらを向いている。目が合った。彼は深く笑った
「銀河さん よく俺の事見てるよね。どうして?」
「どうして って…」
「俺たちよく目が合うでしょ」
「う うん…」
確かにそうなのだ。あたしは無意識に鳳くんを探してしまう。それに彼はよく気がつく。ギリギリで交わしていたつもりだったのに、バレてたんだ恥ずかしい。鳳くんはまた見たことない顔で笑ってる
「銀河さん 俺の事好きなのかな」
目眩がした。お願い、そんな風に笑わないで
「好きな子を目で追っちゃう気持ち 俺すごくよくわかるよ」
「そんな あたしは」
「俺も 銀河さんの事いつも探してるよ。銀河さんが俺を探すみたいに」
「お おおとり くん」
「なに?」
いつも、どんなに見てても平気だったのに真正面から見るとソワソワ挙動不審になってそれどころじゃない。目が泳いでる、鳳くんはまったく見えない。ああ、それじゃあ意味がないの
「やっぱり 見てるだけがいい」
何も考えずに出てしまった心の声。彼はびっくりした顔をして、大きな声で笑った。先生もクラスメイトも、みんなびっくりしてあたしたちを見てる。でも一番びっくりしてるのはあたしだと思う。鳳くんは、ははっと最後に小さく笑ってあたしを見た
「銀河さんは ほんとに俺が大好きなんだね。嬉しいな」
でも俺も大好きだから。あたしの目の前は真っ白だった