serial | ナノ
突然誰かに頭をどつかれて、なまえは悲痛の呻きを上げた。
じんじんと痛む頭を押さえながら、涙を溜めた瞳を背後に向ける。するとそこには、こちらを睨み下ろしている石田三成が存在していた。
「みみ、三成先輩! いきなり現れてなぜ殴るんですか!」
「ふん、貴様が腑抜けた形相で突っ立ているからだ」
「ふ、腑抜け?」
「そうだ。貴様は緊張感が足りん」
「…………ずいぶん偉そうですね。いつものことですが」
聞こえないように呟いたはずなのだが、三成はぎろりと瞳を向けていた。
なまえは黙って俯いた。
「……ひとりのときはそのような隙だらけで突っ立っているなと言っているのだ」
「あ、なるほど」
「理解したか?」
「ひとりのときは腑抜けてはいけないということですよね」
「そう言っているだろう」
「わかりました」
「本当か?」
「たぶん」
「本当か?」
少しくどかった。
なまえはまた同じ返事をすると、三成はなぜかそっぽに顔を背けた。
すると「もういいぞ」と言うので、なまえは小首を傾げた。
「なにがですか?」
「だから……好きなだけ腑抜けろ」
「はい?」
意味がわからない。
今さっき腑抜けるなと言っておきながら、今度は腑抜けてもいいという許しを下された。
「なんなんです先輩……」
そっぽを向いた三成の顔が気になって覗き見ようとすると、突然頭の上に手を置かれた。
押し込むように思い切り頭を撫でられ、なまえは混乱の渦を巻き起こした。
「私の前だけならば好きなだけ腑抜けていろと言っているのだ! 余計なことを言わせるな」
「す、すいませ……い、痛い! 痛いですってば先輩ぃぃ」
そして三成は叫ぶだけ叫んだ後、そそくさと前を歩いて行ってしまった。
「……先輩って不器用なのかなぁ」
三成の背を見つめながら追いかけるなまえであった。