serial | ナノ
ギアッチョはカップに注がれた熱々のコーヒーを一気に飲み干し、しかし思っていたより熱かったようで「アッチーなチクショー!」と悪態を吐く。次はぎりりと歯ぎしりをして「イライラするぜチクショー!」とカップをテーブルに叩きつけるように置いた。
隣のメローネは静かにスタンドの“ベイビィ・フェイス”に何かを入力していたが、ギアッチョのその忌々しい独り言で耳鳴りを起こす寸前だった。
「うるっさいな〜ギアッチョ。熱すぎだからってコーヒーに怒ってどうするの? 飲む前にふーふーした?」
「ちげーよ、コーヒーに怒ってどうすんだよバカタレが!」
「じゃあ何でイライラモードなんだよ」
「あ? ……いや、イライラっつーかよぉ」
冷静な突っ込みでギアッチョは少し苛立ちが引いたのか、小さく息を吐いて椅子の背もたれに体重を預けた。
「おかしいだろ、最近のリーダー」
「リーダーがおかしい?」
「だから、そうだっつってんだろうが。見てみろよ」
少し離れたところにいるリゾットの方を差すと「ん?」とメローネは視線をそっちに移した。
メローネは気づいたところで「あ」と声を上げる。
「頭巾が表裏逆だね。……って! ちょちょ! リーダーリーダー! 手元見ろよ!」
メローネは叫ぶと同時に勢い良く立ち上がった。その声に気づいたリゾットは、持っていたポットを慌ててテーブルに置いた。
リゾットのテーブルは紅茶まみれになっていた。片手に本を読みながらカップに紅茶を注いでいたため、気づかぬまま永遠と紅茶を注いでいたらしい。おまけに、いそいそと溢れた紅茶を拭き始めたが、近くにタオルがなかったせいなのか、自分の頭巾で拭いているではないか……。よく見ると、片手に持っている本は上下逆さまであった。
メローネは信じられないというような表情でギアッチョを見下ろし、静かに言う。
「や、やばくないか、あんなリーダー今までに見たことないぞ」
「だーから言っただろうがよ。新入りが来たぐらいからだよなぁ」
ふん、と鼻を鳴らしてギアッチョは自室へ帰っていった。残されたメローネは恐る恐るリーダーの方をみやる。
……まさかとは思うが、紅茶を拭いていたのが頭巾であったことに今気づいたのだろうか、……頭巾を目の前に掲げてシュンと肩を落としているリゾットの背中。
見なかったことにしよう、とメローネは静かに部屋を後にした。