serial | ナノ 結局、キースは自宅前まで送ってくれた。ここからキース宅は決して側にあるわけではないから、途中で「ここまででいいよ」と足を止めたのだが、彼は歯を光らせて「遠慮はいらない!」と強く言い張った。そして、半ばキースの背を着いていくかたちで帰路を進んだのであった。

帰宅後シャワーを浴び、現在は下着のまま洋服タンスの前で苦悶中。

「う〜ん、オシャレ、かぁ……」

この間、カリーナとお茶をした。もちろん女のとき。
そのとき彼女にあれこれ言われた言葉を思い出していた。
『人生の半分しか女として生きられないんだから、女の子のときはうんとオシャレするべきよ。女に関しては先輩である私が言ってあげてるんだからね!』
あれこれあれこれ。ちなみになまえは二十歳である。この計算でいけば女として生きたのは十年と少しということになる。
お茶の後は、カリーナと服を買ったり(女の子らしい可愛い服を買えと言われ)化粧品を見たり(化粧にはあまり興味がないのだが)して夜を過ごした。

「……これって普通に私服で着るやつなのかなぁ。」

タンスから取り出したのは、ドレスのようなワンピース。ホワイトをベースとし、どことなく大人っぽいもの。リボンやフリルが可愛らしい。
しばらくそれを顔の前に置いて眺め

「ちょっと飾りすぎ? ま、いっか」

なんでもいいや。
そろそろさみしくなった肌にそれを着させてやった。
ポシェットを装着し、ヒールを履いて、家を出た。

きれいな夜空。
街中はまだ日の光のように明るい。
路地を抜けて、皆と落ち合うバーがある通りに出た。
小走りに歩道の端を行く。すると、そのバーの前に見慣れた背格好の男が立っていた。
なまえは男の前で立ち止まり、下から覗き込むようにしてにこりと微笑んだ。

「やっほ、バニー。中に入らないの?」

そこに立っていたバーナビーは、口を半開いた。返答の変わりに彼の視線がなまえの全身を満遍なく舐める。
どうしてか、バーナビーは感極まった様子で瞳を潤ませて口元を手で押さえた。

「一番にあなたの姿を見るために外でひとりさみしく待っていた甲斐がありました」
「いや、わざわざそんなことしなくても……」

アハハ、と呆れを含ませて笑った。
なまえは自分の体を見下ろす。せっかくオシャレをしてきた(?)ので、ついでにバーナビーに見てもらおうか。
彼の顔を見上げ、

「あのさ、ちょっとだけオシャレしてみたんだけど、どうかな?」

軽くポーズを決めてみる。

「えっ……」

と、バーナビーはかすかに驚いた様子で目を見開いた。
その頬が、少しばかり赤らんだ。それがなまえからふいと背けられる。

「あれ、も、もしかして似合ってなかったかな?」

彼の反応をマイナスに受け止めたなまえはわずかに肩を落とす。人生で数少ない慣れないオシャレだったせいで、やはり割に合わなかっただろうか。
なまえはう〜んと唸りながらもう一度自分を見下ろした。
すると、バーナビーの手が頬に伸びてきた。彼の爪先がうんとなまえのヒールに近づいた。

「バニー?」

見上げると、真上にその顔が置かれていた。

「きれいですよ」

ちょっとだけ、真面目な声音。

「あ……え、っと」

気恥ずかしくなって、頭の後ろをかく。

「えへへ、ありがと」

そう言われると、うれしいものだった。
しかし、なまえはバーナビーの本当の気持ちには気づかない。
と、そのとき。
バーの入口から三つの顔が覗いていることに気づいた。その目はすべてジト目だ。

「おいおいおい、俺らずっと中で待ってんだけどさ。二人でなにやってんのよそんな道端で」と、おじさん。
「そーよそーよ。意外と理性が薄いのねハンサム」と、ネイサン。
「ああ、なまえが美しい、そして美しい」最後にキース。
「ご、ごめんごめん、今行くね。入ろうか、バニー」

とバーに入ろうとしたところで、肩に手を置かれる。

「僕も名前で呼んでくれるとうれしいです」

普段の柔らかい笑み。

「そう? わかった。行こ、バーナビー」

彼の手を取った。
握り返す力は、なんとなく強かった気がする。





キースとの帰宅描写がなくてすみませっ
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