serial | ナノ 多くの瓦礫とぼろぼろの内装が目立つ薄暗い空間。ここに運んでくれたのも、傷の手当をしてくれたのも、全部ダンテだ。
私はダンテを見るなりなによりも先に思い立ったのは、言い訳だった。

「わた、私……いつもいつも足手まといだから……迷惑、かけたくなくて……」

ダンテは私の言葉を気にする様子もないまま、異様に大きく聞こえるブーツの音を立てながら古びたベッドに腰かけてポケットから取り出したリンゴにかじりついた。

「ひとりで、やらなかきゃダメなんだと思って……だって、私、強くなりたい。強く、ならないと」

頬にたらりたらりと涙が伝う。
強くならないと、辛い。身も心も強くなれば胸の奥にある本当の想いに悩んで、辛くなることもないんだと思ったから。でも、そんなこと、ただのわがままだ。
声を出す度に喉は苦しくなり、嗚咽がもれ出す。口元を押さえて堪える。
しばらくそうしていて少し落ち着くと、それを見計らったのかダンテは静かに口を開いた。

「お前、丸一日ここで気失ってたんだぜ。んで、たぶん脇腹の骨にひび入ってる。だから包帯ぐるぐる巻きにしといた。他は、まあ軽いほうだ」
「……うん」

呼吸がしずらいのは包帯がきつく巻かれているせいかもしれない。

「だが、よりによってアレが出てくるなんてなぁ」
「アレ?」
「お前をぼろぼろにしたアイツだよ」
「……見たことない悪魔だった」

あの化け物の姿を思い出しただけで、全身に鳥肌が立った。――あのとき助けがなければ、こうしてダンテと話なんてできていなかった。きっと、死んでいた。
手に握る、いつか美しい花を咲かせていた、今は茎だけのものを見つめる。きゅ、と力を込めた。

「お前、さ」

ダンテの声音が変わった。
食べかけのリンゴをコートのポケットにしまうと、

「バージルに来てほしかった?」

ズキ、と胸が痛みだした。同時に、バージルという名前を聞いて心臓が跳ねる。けれどそれよりもなによりも、ダンテの顔が、さみしそうに微笑んでいたのだ。

「そんなこと、ない。もしダンテが来てくれなかったら私は――」
「アイツが来てもきっとそう言ってたんだろ。……いや、お前にとってアイツは俺以上だからもっと喜ん」
「や、やめてッ」

ダンテの言葉を遮った。じわり、と視界が歪む。

「どうしてそんなこと、言うの……?」
「……」

ベッドから腰を持ち上げて、ダンテがゆっくりと私に近づいた。私の顔の位置になるようにしゃがみ込んで、また、さみしそうな目が見据える。

「助けたとき、バージルが来てくれたって思ったろ? あのときお前が口にしたのは俺じゃなくて、バージルだった」

覚えている。確かに、意識が途切れる前に口にした名前はダンテではなく……バージルだった。
なにを言ったらいいのか、わからない。

「ご、ごめ」
「俺がお前を助けたんだ。バージルじゃない。アイツじゃないだろ……!」
「ごめん、なさ」
「謝んな。俺を見ろ」

背けられた顔を、顎を捕まれて強引に寄せられた。彼のブルーの瞳にはたくさんの感情が内包されているようだった。

「ダ、ダンテ……痛いよ」

重いまぶたを落とす。頬を一粒の涙が伝った。

「俺にしろよ。俺で、いいだろ」

かすれた声だった。薄く目を開けたとき、ダンテの顔が迫っていて、気づいたときには、あたたかい唇が精気を与えるように、私のそれに重ね合わせられていた。
ダンテなりの優しさが、胸に染み込んでくる。私を心の底から想っているということを、私は思い知った。
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -