serial | ナノ
足跡。
獣は立ち止まると、背後を覗き見るように振り返った。鋭いその瞳だが、どこかためらうような、そして悲しみに濡れているような、そんな眼差しで見つめていた。
獣がどんな思いで道を駆け続けてきたのか、またどんな努力をして今を進んでいるのか。それは、彼にしかわからない。
獣は、過去に散った一輪と今の一輪の影を、重ねざるをえなかった。
目が覚めた。
すべて、記憶にある。くっきりと頭の中でそれが映像として残っている。現実を受け入れろと言わんばかりの体中の痛みと、絶え間無く瞳の奥で繰り返される映像。
負けた。
弱い。
足手まとい。
……自分は、弱い。
瞬きを忘れた目からは涙が流れに流れていた。
だんだんと全身の感覚が蘇り、自身の体を見回す。
「包帯……」
自分で用意した包帯が腕や脇腹などに巻かれていた。すぐそばには鎮痛剤が落ちている。体は楽な体勢が保たれていた。ふと手元を見ると、花びらが一つもなくなった赤い花の茎を握っていた。あのとき、私はなすすべなく花びらがすべて飛び散っていくのをはっきりと見ていた。
「赤い、花」
込み上げてくるなにかに押し上げられて涙がどっと溢れだした。
「頑固って、言ったじゃん」
どこかダンテを思わせていた、赤い花。それを強く握りしめて、胸に押し当てた。
「ダン、テ」
するとそのとき。
「呼んだか?」
その声と共にすぐ近くで、がしゃりという音が響いた。ゆっくりと顔を持ち上げて、眩しいほどの赤に身を包んだ彼の薄い微笑みを見つめた。
「ダ、ダンテ……」
気を失う前に見たあの銀色は、ダンテだったのだ。
“彼”ではなく、ダンテだった。