serial | ナノ
合言葉ありの依頼。
悪魔が現れたのだ。
受話器を置くと、階段の上の扉を見遣った。悪魔兄弟はまだ夢の中だ。
「私だって、ひとりでやれる」
ぐ、と拳に力を入れた。
壁に立てかけてある短剣と銃を腰のホルダーに差し、足に巻かれた古びた包帯をほどいた。
あれから一週間ほど経つ。跡は残っているものの、傷は完治していた。
包帯を見つめて、握りしめる。
そう、自分の身は自分で守るしかないんだ。
彼の言葉が脳裏によぎる。
『油断をしてみろ、“死”だと思え。もう、助けてやらん』
私は、きっとバージルを苦しめている。
あれから、たくさんの事を考えざるをえなかった。
ダンテとバージルは喧嘩でもしているのか顔を合わせるなり険悪なムードを放出している。……その原因が自分だとしたら、もうどうすればいいのかわからなかった。
でもどちらも私には普通に接してくれている。ダンテはむしろしつこくなった。とくに、執拗なボディタッチには気をつけている。
――バージルは、
「私のほうが……気にしすぎなのかな」
バージルは無理な微笑みを作っている気がする。もしかしたら私の考えすぎでそう脳に映ってしまっているだけなのかもしれないけれど、前みたいな、自然で不意に見せる笑顔が見えなくなった。
「これは、私のせいなのかな。……私って、バージルのなんなんだろう」
そこではっとして、何を考えているんだ自分は、と頭を抱えてその言葉を振るい落とす。
どうしても拭い取れないこの気持ち。また勘違いしてしまう。いけないことだというのに、どうしても触れてしまう。彼が心から見ている人がいるというのに、その領域に入ってしまっては駄目なのだ。
「はぁ、……なんか泣きそう」
だがすでに視界は歪んでいる。
握りしめた包帯で目を擦った。
今はそんなことより、依頼の悪魔を退治しなければ。
深呼吸をして、気持ちを切り替える。
今度こそ、ひとりでやれる。
助けは、もう来ないのだから。
「よし、行こう」
包帯を放って扉を開けた。