serial | ナノ
扉を閉めると、部屋の中の空気が一変した。
バージルはゆっくりとドアのぶから手を離し、ベッドに横たわったままのダンテの傍らに歩み寄った。
「なんだよ?」
黙りこくって自分を睨むように見下ろしてくるバージルに、ダンテは肩をすくめて薄く笑った。
バージルは低い声音で言う。
「中途半端に手を出すのはやめろ」
先ほどのなまえに対する態度と今のバージルの態度、それは砂と岩のような違いだった。
それはどこか怒っているようにも見てとれた。
「はー? なにがだよ。なまえのことか?」
「そうだ」
「中途半端って、お前のことだろ」
「……なんだと?」
ダンテはベッドから飛び降り、欠伸をしながらバージルの肩に手を置いた。鋭い視線が絡む。
「いつまでも半端もんだっつってんだよ。それに、俺は本気だ」
ダンテは扉へ歩きだす。が、バージルがそれをさせなかった。
ダンテの胸倉を掴むと、ダン! という凄まじい音と共に壁へ叩きつける。ダンテは背中から激しい痛みを感じた。
「いってーな、なにすんだよ」
「あれに……なまえに触るな」
怒りに満ちたバージルはダンテの瞳を睨んだ。ダンテは怯むこともなく、口元を吊り上げて薄く笑いを漏らした。
「触んな、だ? なまえはお前のオモチャかよ。いつお前のもんになったんだよ」
「貴様のものでもない」
「……お前はなまえを見ちゃいない。ずっと遠ーくにいる別の女を見てる。そうだろ?」
ダンテは焦りも怒りも同情も、なにもしないしなにも感じない。感傷など一切しなかった。バージルの心なんてお見とおしだからだ。
「……」
バージルはかすかに目を開き、余裕の表情をするダンテを睨んだ。
「ほらな、なにも言えねぇ」
自分の胸倉を掴む腕を掴んだ。ぐぐ、と押し返し、黙ったままのバージルに嘲笑を送った。
「さっきも言ったけど、俺は本気だ。いや、今本気になった。…………てか、まただんまりかよ」
バージルの腕を振り払うと、部屋から出て行った。
バージルは歯噛みをした。なにを言い返すこともできなかった自分に怒りを覚えた。確かに、ダンテの言っていることは間違いではない。中途半端に、今のように口にしてしまう。
拳に力が入る。
振り上げると、それを壁に向かって勢いよく突き出した。