serial | ナノ そんなの、ただの勘違いだ。

「……もう、やめてよ!」
「おぶっ!」

なんとかダンテの顔を両手で押しのけることができた。しかし離れようにも、体を抱きしめてくる腕は解くことを知らないようだった。

「お、おま、舌噛ん」
「た、たしかに!」

ダンテの言葉の途中でそう叫んだ。

「自分でもわかってたような気がするんだ……バージルは他の誰かをどこかで感じてる、って」

だから、だいぶ前に『諦め』という選択をした。バージルは好きだけれど、それはダンテを好きという気持ちと同じものだ。そう自分に言い聞かせた。彼に、想いを寄せる人がいるというならば、邪魔をしてはいけない。
でも時々、彼への微かな想いが、漏れ出てしまうときがあるのだ。それは結局自分の胸を締め付けてくれるだけ。

「バージルだって、一途だもん」

自分の声が震えていて驚くと、今にも涙を流してしまいそうなほど目の奥が熱くなっていることに気づいた。ダンテに間近で泣き顔を見られまいと、顔を俯かせる。
しばらく沈黙していると思うと、ダンテはなぜかクク、と笑い私を自身の胸に抱き寄せた。

「泣くなよなまえー。俺今きゅんときてるぞ」

これはきっと彼の優しさだ。泣き出しそうな私を慰めてくれているんだ。
……少しだけなら。と思って、ダンテの背中に腕を回した。なんだか彼の体温は落ち着くことができる。まどろんでしまいそうだった。

「な、俺にしろよ。俺は、お前がいい」

優しい声に思わず心臓が高鳴った。その言葉の意味には「俺はバージルとは違う」という暗示が込められているのだと感じた。けれど私はなんの言葉を発することもなく、ただ目をつぶった。
今では、簡単に答えを出すこともできなくなってしまった。昔ならすぐに答えを出せていたに違いないのに。
ノー、と。
するとそのとき。

「おい」

どこからか声がした。間違いなく、さきほど下で読書していた彼の声だった。
咄嗟にダンテから離れて、扉に寄り掛かって腕を組んでいるバージルのほうへ向く。

「愚弟、そいつに何かしたのか」

まるで泣いていたのを見透かしたかのような台詞だった。低音のきいた声だった。
俯いていると、背後からダンテが私を包むように抱きしめた。

「なんかしたのはお前のほうじゃねえの?」
「ダンテ」

ダンテの口元に一本の指を立てて『黙れ』の意を示した。彼の腕を静かに緩めて、私は立ち上がった。瞳に溜まった涙を拭って、バージルの側へと歩いた。

「き、昨日はごめんなさい。もうあんな無茶なことしないから……足手まといにならないから……まだ怒ってるなら、その……」

せっかく拭ったのに、涙も言葉をつづっていくにつれて溢れ出てくる。緊張と恐怖とで、どんどん溢れてくる。
ため息とともに頭の上に彼の大きな手が置かれた。ちらりと彼を見上げると、薄い微笑みを浮かべたバージルの顔があった。
また、胸が締め付けられた。

「もういい。……それより、腹が減った」

それだけのことで、私は元気が沸いてきた気がした。バージルの微笑みを見るだけで、幸せな気分になれた。いつの間にか涙も消え失せていた。ただ、胸の辺りがとても熱かった。

「じゃ、じゃあ、今なにか作ってくる!」

本当はこの触れている手から離れたくないが、急いでキッチンへ向かうことにした。
急いで廊下と階段を駆け降りる。階段の下までたどり着くと、まだ頭の上の温かい感触が名残惜しそうに残っていた。
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