serial | ナノ リビングへと続く扉を開けると、いつもと変わらない光景が目の前に現れた。バージルは本を片手に紅茶をすすっている。彼は本を読むとき、眼鏡をかける。その眼鏡姿ときたら、もう一目惚れしてしまうほどの強烈さだ。毎朝の楽しみのひとつは、そんな彼を見つめることであった。
が、そんなことより今は昨日の一件のことが脳みそに漂ってしまっている。
少しためらって、

「お、おはよう、バージル」

するとバージルは視線だけをこちらに向けるだけで、口を開くことはなかった。その視線が包帯の巻かれた足にチラリと移動した。
どきり、と心臓が鳴った。自分の不注意によって受けた傷。苛立ちながらも彼が巻いてくれた包帯。
バージルは何を言うでもなく、再び本へと顔を戻してしまった。やっぱり、昨日のことまだ怒ってる。今日一日は静かにしておいたほうが身のためだ。
――そして、彼のためでもあるのかもしれない。
ため息をはいて、リビングには入らず扉を閉めた。


きっとダンテはまだ夢の中だろう。彼の部屋の扉をノックもせずに開けた。
ベッドには大の字になって寝ているダンテの姿があった。その傍らに立ち止まる。裸で寝ているのは珍しいものではない。バージルだって、さすがに暑いときは上半身裸で寝てるときはある。

「はぁ、バージル……」

と彼の名を呟く。この罪悪感は、一体なんなんだろう。心が痛い。
すると、

「あのさぁ」
「え、……わっ!」

突然ダンテの声がしたと思うと、体のバランスが崩れた。腕を引っ張られたのである。
いつの間にか起きていたのか、瞳が開かれたダンテの顔が目の前にあった。

「俺を前にして、いかにも寂しそうなツラであいつの名前言うのやめろ。俺のが寂しいってんだ」
「ご、ごめん。ちょ、離してよ」

ダンテの胸を押して離れようとしたが、背中に腕を回されてまったく身動きができない。

「やだ」

すると、今度は力強く抱きしめられた。

「あいつはやめとけ」
「え?」

ダンテの言葉を聞いて、離れようともがいていた体をぴたりと止めた。

「あいつはお前を見ちゃいない」

理解できなかった。一体なにを言っているんだ。

「や、やめとけって、なに? あたしバージルのこと別に――」

別に。
その後の言葉を、なぜか口にすることができなかった。

「俺は、一途だぜ?」

真面目な瞳だった。そんなダンテの顔が、近づいてきた。なぜか体は動かなくて、逃げるということも忘れていた。
気がついたら、口は柔らかい何かと重なっていた。
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