serial | ナノ ランチを終えて、やけに優しかった小平太を置いて食堂を出た。途中でおばちゃんが帰ってきたので小平太は今ごろ美味しい思いをしているころだ。
部屋に戻ってさっさと横になろう。
明日には治ってるといいのだが。
「っにしても体がダルいわ……」
「だるびっしゅ?」
ふらつく体を壁を支えにして歩いていたら、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。
その正体は、保健委員会委員長の善法寺伊作。まさかこんなところでこんなときに出会ってしまうとは。不運だ。
「や、やあ、伊作。とても忙しそうだね、それじゃ」
「ううん、すごく暇だよ」
颯爽と退散しようと壁を這ったが、肩をがっしと掴まれて進めなかった。
「なまえ」
「なにさ」
「医務室に行きましょう」
「いや、いい」
「ダメです。保健委員として病人を放っておけませんから」

さすが保健委員長の目はすぐになまえが病気していることを察知したようだ。伊作は言葉こそ真面目だが、その両手はするりとなまえの胴体に巻き付かんとしていた。
「医務室に来ないというならば僕があなたの部屋に行って看病しますけど。どうします? あ、僕にとってはそっちのほうが都合がいいかもです」
「遠慮しておこう。って、引っ付くな伊作」
「だってもうふらふらじゃない。壁づたいじゃないと歩けないんでしょ?」
ひょいと体が持ち上がる。
「……ちょ、伊作」
「はい?」
「これはなんのシチュエーション?」
「お姫様抱っこですね」
いやそんな微笑ましく言われても。
だが体は立っているときよりもはるかに楽だった。
そのまま伊作は歩き出す。
「けっこう軽いね。ちゃんと食べてるんですか?」
「食べてるって。心配しすぎだよ、お前は」
まあ、保健委員だから仕方ないか。
「症状は?」
「ん〜、完全に風邪の症状かな」
「喉の痛みと鼻水は?」
「ある」
「体のだるさや頭痛も?」
「うん」
「ちなみにスリーサイズは?」
「おい」
「あはは、抜け駆けだとそう上手くはいかないか☆」
「いやそういう意味じゃないだろうが」
そんな他愛ない会話をしていたら医務室に到着した。
布団に体を横たえて、ふうと息を吐いた。目を閉じる。
部屋に染み付いた薬のにおいは今は苦ではなかった。むしろこの弱った体に安心をくれるものだった。
「大丈夫?」
「ん、大丈夫」
実際、目を閉じていないと辛かったりする。
棚をごそごそといじっていた伊作は薬を取り出してなまえの傍らに腰を下ろした。
「効きめがいいんですよ」
「またおかしな薬なんかじゃないだろうな?」
「当たり前じゃないですか、ちゃんとした風邪薬です。よく眠れるよ」
安心感を与える声音。
すでに眠たい。
「摂取方法はどうします?」
「そんなんあるの?」
「はい。口移しと、口移しと、口移しがあります」
「四つめの摂取方法でいい」
「え!? い、いや……それは……急にそんなことできないですよ! なまえって、大胆だね」
急に顔を赤くさせて体をもじもじさせる伊作。
その四つめは一体なんなんだ。
「もういい、貸せ!」
「ああっ」
伊作の手から薬をねじり取って水と一緒に飲み込んだ。
「あ〜あ、抜け駆けしようと思ったのになぁ」
惜しそうにブーと唇を尖らせた伊作を一瞥した。そんなのは無視してなまえは頭まで布団を被る。
「伊作」
「はいー?」
「薬、ありがと」
「いえいえ。お礼は体でいいですからね」
「この……バカタレ」
睡魔が襲ってきてツッコミもままならなかった。
布団の心地好さを身に感じながら、意識を眠らせた。
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -