serial | ナノ ある休日。
全身のだるさを感じて、布団からむくりと体を起こした。腕を動かすのも億劫なくらい体が重たい。
風邪をひいた。
喉は痛い、鼻は詰まって息苦しい、頭の中は熱でぼーっとしてしまって使いものにならない。ああ、今日が休日でよかった。本当によかった。生徒たちに余計な世話をかけさせてしまうからね……。今日は一日、自室に閉じこもっていよう。
とりあえず朝ご飯を食べようと食堂へ向かった。おばちゃんの美味しいご飯を食べれば少しくらい元気を取り戻せるかもしれない。ふらふらと食堂に向かった。
羽織にくるまりながらじっと座っていると、食堂のおばちゃんがランチを運んできてくれた。量は少なめ。
「ありがとう、おばちゃん」
「どういたしまして。でもそんなことより……」
おばちゃんの手がなまえの額にあてられる。
「ほんとに大丈夫なの? 顔色も良くないし、やっぱり医務室で休んだほうがいいんじゃない?」
「ううん、大丈夫。寝ればすぐ治りますよ。それに栄養たっぷりのおばちゃんのご飯食べればすぐですよ」
「そお?」
「うん。……ごほっごほォっ。じゃあ、いただきます」
「召し上がれ。ゆっくり食べなさいね」
「はい」
おばちゃんは食堂から出ていった。
少しずつ口に運ぶ。食欲がないのに箸が止まらないのは、やっぱりおばちゃんの料理が美味しいからだ。残すわけにいかない。
すると。
「いけいけどんどーん!」
食堂の入口から聞き慣れた声が響いた。
「おばちゃん、腹減って死にそうだ! B定食! ……ありゃ、おばちゃんがいない」
「あ、小平太おはよう。おばちゃんならさっきどこか行ったわよ」
「おお、なまえがいる。ではおばちゃんが戻ってくるまで待ってよう」
小平太は目の前に座した。
テーブルに肘をついて、食事をするなまえをご機嫌な眼差しで見つめる。するとすぐさま異変に気づいたようで、
「おいなまえ、なんだか顔色が悪いぞ」
「ん? ま、まあ細かいことは気にするな」
「気にする」
「いやキャラ的にさ、ほら」
「気にする」
強い視線を浴びせられる。
まだまだ浴びせられる。
それでも浴びせられる。
耐え兼ねた。
「ちょ、ちょっと体調崩しただけ。ごほっ、ごふぉ」
「辛そうだな。そうだ、私がランチを食わせてやろう!」
「ぇ、え?」
箸をもぎ取られた。
小平太はにんまりと笑みを浮かべて、おかずを挟んで「ん」となまえの口の先に箸を持ってきた。
「い、いや自分で食べれますが……」
「細かいことは気にするな! ほれ、あーん」
「……あ、あーん」
ぱくり、といただいた。
これも少ない心遣いだと思って。
「どうだ、うまいか?」
「ん。うまい」
「そうか!」
小平太は満足そうに含み笑った。
「なまえ、風邪をひいたなら人肌を重ねるといいぞ」
「うん、そうね」
「私がその人肌になってやろう!」
「いや、気持ちだけ受けとっておくよ」
「む、私は本気だぞ」
「そっか、ありがとう」
熱に苛まれているなまえの脳みそはその意味をうまく把握できないまま、優しい生徒になったものだなぁ、なんて感心していた。
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