serial | ナノ ぎんぎんぎーん!
ぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎんぎん――
「っアアアア! 眠れん!」
外から聞こえてくるぎんぎんぎんぎんの声がうるさくて眠れやしない。なんて忌ま忌ましいのだ。
布団からガバッと体を起こしたなまえは苛立ちながらふすまを勢いよく開け放った。縁側に出る。小声で叫んだ。
「文次郎ォ! うるさい、眠れない、他の皆様にも迷惑だろうが!」
文次郎はなまえの声に気づいて、動作をやめて額の汗を拭うと、
「ふっ、やっと起きたか。だから他の皆様に迷惑がかからぬよう、なるべくなまえの部屋の近くでぎんぎんに忍者してたんだよ」
はっはっは、と腰に手を当てて満足げに笑った。
「やっと起きたかってなんだ。それでもうるさいものはうるさい! 頼むから寝かせてください」
「じゃあ寝ればいいだろ」
「お前が起こしたんだろうが!」
「お前が勝手に起きてきたんだろうが」
こ、こいつぅぅぅ。……って、ん?
「ちょっと、文次郎」
ふと気づいて、地面に下りた。文次郎の前に歩み寄る。少し上にある彼の顔を見つめて、その頬を両手でぱちん、と挟んだ。意外と柔らかな頬だった。ぴちぴちだった。
「あまり寝てないだろ、文次郎。くまがひどい」
目の下に、それはもう塗ったようにくっきりと。
「きちんと寝なさい。ぎんぎんに忍者するのは構わないけど、それで倒れたりでもするほうが下級生に示しがつかないわよ。そしてあんたは私の生徒なんだってことも自覚なさい」
当然、担任として、愛おしい生徒として述べた言葉である。

文次郎はしばらく思慮深い顔をしていた。すると考えがまとまったようで「ふむ」と声を上げたと思うと、彼の両手がなまえの頬をぎゅむと挟んだ。
文次郎の顔がきらきらと輝き出す。
「なるほど! なまえはそんなに俺と寝たいのか。そうかそうか、仕方ない、添い寝してやっからそんなさみしそうな顔すんなって!」
「え? ちょ、なに言って……わぁっ」
腰を抱き上げられ、なまえの部屋へとまっすぐ歩き出す。
「そうならそうとはっきり言えばいいのによお、かわいい奴め」
「ま、待て、文次郎! なに勘違いしてる!?」
「はっはっはっは」
「はっはっはっはじゃない、人の話をききなさい!」
ドサ、と布団に倒される。
上には不適な笑みを浮かべた文次郎。
「待て待て待て待て! 待――――」
なにをされるのかと思い、なまえは瞳を強く閉じた。





「――てぇぇええぇえ! ………………え?」

きょろきょろと回りを見渡す。文次郎の姿はなかった。そしていつの間にか朝を迎えていた。
ひとつ、大きなため息をつく。
……なんだ、夢だったのか。
「あ〜変な夢見た。てかやめてよこんな夢さ〜、ありえん。疲れてんのかな私。……ん?」
立ち上がろうと布団に手をついたとき、なにやら冷たくてかたいものが指に触れた。
手元を見る。
「こ、これは」
文次郎が常に持ち歩いている一〇キロそろばんだった。
「……」
なぜ、
こんなところに、
置いて、
ある?
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