serial | ナノ ガタン、と鉄製の扉を閉め、左右に続く廊下に出た。
ネクタイをきちんと締めてスーツのボタンを止める。
ポニーテールだった髪は今や垂れ下がっていた。結んでいたゴムは博士に取られてしまったようだ。
女性黒スーツ――キアラはその場に立ち尽くした。
博士に抱かれた身体はまだまだ熱を保ち続けている。腹の底で波打つものを幾度も感じた。

「……っ」

じわり、と瞳に染み出てくるものにめいいっぱい抵抗する。――その涙は屈辱ゆえか、悔しさゆえか、それとも。
片手を強く握りしめる。もう片方は、嗚咽がもれそうになる口元を覆っていた。
廊下の向こうの角に、キアラを覗くように見つめている二人の黒スーツがいる。先ほど博士に出ていけと言われたあの二人。心配そうな表情をその顔に浮かべていた。
茶髪の一人が立ち上がって、ためらいがちに口を開く。

「キ、キアラ」
「!」

声のしたほうに驚いたように顔を上げた彼女は、そこで、二人がいたことに気づいた。急いで涙を拭って、二人を睨み見遣る。

「ジェット、アルド。そんなところでこそこそしてないで次の任務の準備をしなさい」

その声に覇気はなかった。
震えそうになる声をなんとか押し殺しているような、そんな声だった。

「その……お前」
「大丈夫」

キアラは薄く笑って、ジェットの言葉を遮った。二人に背を向けて、瞳だけを振り返る。

「次の失敗はない」

彼女はそのまま歩き出した。
まっすぐ、前を見据えたまま。

「ま、待てよ!」

キアラに引っ張られるように飛び出しそうになったジェットだが、アルドがそれを制した。

「ノー」
「ノーって……。キアラが……あのおっさんに……っ」

その後は言葉を詰まらせて、どうしようもなくなって、舌打ちした。アルドに制されていた手を払い退けた。

「……ジェット。キアラ、心、強い。違うか?」

まだ慣れていないのであろうぎこちない日本語でアルドは言った。
ジェットは顔を伏せて肩を小刻みに震わせている。まるで、感情を押し殺すように。

「キアラ、お前の恋人。きっと、大丈夫。これも、仕事」

彼を落ち着かせようとしているのだろう。アルドは、自分のやわらかく波の打ったブロンド髪のようにやんわりと笑みを作って、ジェットの背中を撫でた。
だが、それは逆に彼の意を突いてしまったようだ。

「仕事……? 犯されんのが仕事だってのか、ァア? ……なにがわかんだよ、てめぇに! なにが『大丈夫』だ! わかったふうに言うんじゃねえ!」

振り上がったジェットの瞳から水滴が散った。

「あ……ご、ごめ」

アルドが謝り終わる前に、ジェットは早足に廊下を行ってしまった。
一人残されてしまった彼は、悲しげに目を伏せた。





コンビニで食い物の調達をしていると、商品に手を伸ばそうとした烏哭の手がぴたりと止まった。その手はおもむろに額を覆った。

「烏哭、どした? 頭痛い?」

その様子に心配したなまえは烏哭の顔を覗き込んだ。

「……」
「烏哭?」
「……」
「ちょっと、大丈夫なの?」

烏哭の頭に触れようと手を持ち上げると、

「……なまえ」

手首を掴まれた。
瞳が合う。

「えっ」

どき、と心臓が鳴った。
あまりにも真面目な顔だったから。だがその口から発せられたのは、

「セックスしたい」

側を通った客が気まずそうに遠ざかっていった。

「ねぇ、セッ」
「だだ黙れ!」

その先は言わせまいと烏哭の口の中にパン(まだお金を払っていない)をねじ込んだ。パンをねじ込んだまま烏哭をつまんでレジを終わらせてさっさとコンビニから出た。

「あ、あんた場違いなんだけど! 客に変な目で見られたじゃない!」
「だって無性にやりたくなっちゃったんだもん」
「な、なに言って」
「顔赤いよ」

と、完全に油断した。慣れた手つきで顎をくいと持ち上げられ、するりと腰に腕が巻きつく。烏哭と密着するかたちになった。
端麗な顔が近づいて、

「今日は眠らせないよ」
「あ、の……」

急激に顔の温度が上昇した。
その気を十分に取り巻いている烏哭に初めて押し負けた。








黒スーツの三人は二十歳くらいですかね^q^
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